支える人を支えるために ケアラー(無償の介護者)支援

日本には昔から「介護は家族が看るもの」という価値観が根強くあります。
しかし、核家族化や少子高齢化が進み、家族の負担が限界を超える例が後を絶ちません。
介護者は精神的、身体的、経済的に過剰な負担を抱え、介護疲れにあえいでいます。
日本の社会保障制度は、これまで介護者支援の視点が欠けていました。
いま、要介護者と介護者の状態やニーズを踏まえた包括的な支援が求められています。

要介護者600万人の約7割を家族が介護

  「ケアラー」という言葉を初めて聞いたという方も多いことでしょう。介護というと高齢者介護と同義のように捉えられることも多いなか、高齢者だけでなく、障がい者(児)、疾病のある家族などの介護、看病、見守りなどをしている無償の介護者を総称して「ケアラー」と呼んでいます(資料(1)参照)。
  3年ごとに実施する厚生労働省による大規模調査「平成25年国民生活基礎調査」によると、主な介護者の71.2%が家族(同居の家族61.6%、別居の家族等9.6%)であり、事業者は14.8%に過ぎません。介護のほとんどを家族が担っているのが現状です。また、男女別、年齢別にみると60歳~80歳以上の男性が69%、女性が68.5%と、「老老介護」の実態も明らかになっています。
  慢性的な介護職員不足、平成27年度介護保険法改正による介護サービスの縮減、介護費利用者負担増などが懸念されるなか、ケアラーの役割はますます重要になっています。日本の社会保障精度においては、要介護者の支援策が中心で、これまで介護支援者の視点は欠けていました。看護・介護を理由にした離職による経済的な困窮、地域社会からの孤立化、介護疲れによる体調不良や殺人、自殺にまで追い込まれる痛ましい事件も増加しています。

資料(1)

こんな人がケアラーです。

病気の家族を看病し気にかけている 高齢者や障がいのある家族をケアしている 遠方に住む親を気にかけている
病気の家族を看病し
気にかけている
高齢者や障がいのある
家族をケアしている
遠方に住む親を
気にかけている
ひきこもりや不登校の家族をケアしている 近所の高齢者の手助けをしている アルコール・薬物・ギャンブル依存の家族を抱えている
ひきこもりや不登校の
家族をケアしている
近所の高齢者の
手助けをしている
アルコール・薬物・ギャンブル
依存の家族を抱えている
障がいをもつ子どもを育てている
障がいをもつ子どもを
育てている
(c)一般社団法人 日本ケアラー連盟
(社)日本ケアラー連盟の許可を得て掲載しています
【参考資料】(社)日本ケアラー連盟編「あなたのまちの介護者支援ガイド」

「ケアラー支援法」の制定を

  取材中の12月5日、読売新聞一面トップで衝撃的な記事が掲載されました。少し長くなりますが引用します。
  『介護殺人や心中179件/高齢者介護を巡る家族間の殺人や心中などの事件が2013年以降、全国で少なくとも179件発生し、189人が死亡していたことが読売新聞の調査で明らかになった。ほぼ1週間に1件のペースで発生しており、70歳以上の夫婦間で事件が起きたケースが4割を占めた。介護が必要な人が10年前の1.5倍の600万人超に上る中、高齢の夫婦が「老老介護」の末に悲劇に至る例が多いことが浮き彫りになった。』
  ケアラー支援は、待ったなしの状況にあると言わざるを得ません。
  日本ケアラー連盟では、2009年から介護者支援法案の検討を開始。その後、改訂を重ねながら「介護者(ケアラー)支援の推進に関する法律案(仮称)」を提案し続けています。国や自治体は、理念やあるべき施策の基本についてはうたっているものの、責務規定や実際の施策は具体的に書き込まれていません。一刻も早く介護者に届く支援策や支援ツールを具体化することが求められています。

ケアラー支援5つのポイント

  日本ケアラー連盟では、ケアラー支援のポイントとして以下の5項目を挙げています。

(1)介護者の実態を把握する
(2)人・もの・場を連動して機能させる
(3)潜在化している介護者ニーズを顕在化する
(4)介護者にアウトリーチ(訪問支援)する
(5)介護者支援を政策にもりこむ

  地域包括ケアシステムの中にケアラー支援を位置づけ、ケアラーを社会全体で支え、ケアラーの負担を軽減することは、介護の質の向上にもつながります。ケアラー支援は、社会経済や社会保障の持続可能にもつながるものです。ケアラーに焦点を当てた支援は、わが国の将来にとっても不可欠なものとなっています。

一般社団法人 日本ケアラー連盟

東京都新宿区新宿1-25-3 エクセルコート新宿302  電話(03)3355-8028 FAX(03)5368-1956

平成22年、任意団体としてケアラー(家族などの無償の介護者)連盟を発足。平成23年、一般社団法人日本ケアラー連盟を設立しました。日本ケアラー連盟は、介護している人、介護者を気づかう人、介護者の抱える問題を社会的に解決しようという志をもつ人が集い、病気や障がいごとの縦割り介護を横につないで、「市民の共感と連帯の力がいかされる社会保障」に向けた改革を推し進め、ともに生きる社会をつくることを目的としています。

 

栗山町社協が推進するケアラー支援でまちづくり

全世帯のケアラー実態調査

地域のたまり場となっている栗山町の「ケアラーズカフェ」
▲地域のたまり場となっている栗山町の「ケアラーズカフェ」

  道内で唯一、ケアラー支援事業に取り組み、「福祉のまちづくり」を推進する栗山町社会福祉協議会(以下、栗山町社協)を訪ね、事務局長の上島宣和さんにケアラー支援の現状、意義について話を聞きました。
  平成22年3月、栗山町社協は、民間の介護事業への参入が進んだことを機に、介護保険事業から撤退しました。時を同じくしてケアラー連盟(現・日本ケアラー連盟)から全国5地区(京都市、静岡市、東京都杉並区、南魚沼市、栗山町)で実施するケアラー実態調査の協力を依頼されました。「ケアラー」は初めて耳にする言葉でしたが、ケアラー支援の必要性の説明を受けてすぐに納得し、全世帯の調査を実施しました。

ケアラー支援を事業の中心に

「いのちのバトン」の配付世帯を在宅サポーターが定期的に訪問
▲「いのちのバトン」の配付世帯を在宅サポーターが定期的に訪問
見守り介護ロボット「ケアロボ」
▲見守り介護ロボット「ケアロボ」
栗山町社協が独自に作成した日本初の「ケアラー手帳」
▲栗山町社協が独自に作成した日本初の「ケアラー手帳」
いのちのバトン
▲いのちのバトン

  調査により全世帯の約15%(960世帯)にケアラーがいること、さらにケアラーの約60%が病気などの体調不良を訴えていることがわかりました。また、訪問インタビュー調査によって、ケアラーの多くが日常生活や心身に不安を抱え、地域とも疎遠になりがちで、将来に不安を抱えていることが明らかになりました。栗山町社協では、社協活動の視点をケアラー支援におき、ひと・もの・場所などのルーツづくりをスピード感をもって進めてきました(資料(2)参照)。
  まずは、ケアラー世帯やひとり暮らしの高齢者への「いのちのバトン」の配布。緊急連絡先・かかりつけの医療機関などを記入したカードを入れた専用容器を冷蔵庫に保管して緊急時に対応するものです。町内会や民生委員により配布することで地域の見守りを強化しています。同時に栗山町社協独自の職種として「在宅サポーター」2名を採用。定期的に訪問し、相談や話し相手になり、ケアラーや高齢者を孤立から守る訪問事業をはじめました。さらに、ケアラー支援の新しい担い手として「ケアラーサポーター養成研修」を開催。講座を修了した町民45名は、平成27年から本格的な活動を始めています。
  平成24年には、ケアラーと地域をつなぐツールとして全国初となる「ケアラー手帳」を作成。ケアラーの心身を守り、孤立化を防いでいます。「介護のため買い物に行けない」「通院が大変」などのケアラーの声に応えて、町内の商店と協力して独自に「宅配電話帳」を作成し全世帯に配布。福祉の財源が地域で循環する仕組みを作り出しました。
  「1週間以上、人と話していない」「介護の合間に息抜きできる場所があったら」。訪問する在宅サポーターに寄せられた声に応えて、平成24年に「まちなかケアラーズカフェ・サンタの笑顔(ほほえみ)」が誕生しました。支える側も支えられる側も自由に集まり交流できる場となっています。「訪問で聞けなかったことも、カフェで話していると聞けることがあります。情報収集の場でもあるんです」と上島さんは言います。また、月1回は「ママカフェ」として場所を提供しています。平成28年には、住民の要請を受けて角田地区に2号店もオープンしました。
  老老介護、就労介護、多重介護、遠距離介護など介護の形態が多様化するなかで、常に新たな支援方法を模索していた平成26年、見守り介護ロボット「ケアロボ」の実証実験に参加する機会を得ました。カメラ送信機内蔵の「ケアロボ」を室内に置き、部屋の入口やトイレ付近の赤外線センサーが反応すると、自動的に画像が外出中のケアラーの携帯電話に送信されます。この実験から、要介護者と離れている間の不安や気がかりからのストレスが、画像で確認できることで軽減され、介護離職の防止などにも有効であることが実証されました。

「栗山ならだいじょうぶ」

  栗山町社協の取り組みは道内の各自治体からも注目され、多くの社協や民生委員たちが視察に訪れています。
  「介護している人は自分の健康管理は二の次になるのが現実で、介護者が見過ごされてしまう。重症化する前にケアラーを支援することが必要です」。
  介護者に余裕がなければ、良い介護はできません。栗山町社協は、10年後の医療費・介護費の2割減をテーマに掲げ、ケアラー世帯を24時間体制でサポートする新しい仕組みの創造を目指しています。
  「社協の会員は全町民ですし、地域福祉を皆さんで一緒に考えていきたいと思っています」。ケアラー支援による『地域で支え合うまちづくり』は着実に住民に浸透しています。


社会福祉法人 栗山町社会福祉協議会

夕張郡栗山町朝日4丁目9-36 総合福祉センター「しゃるる」内
電話(0123)72-1322 FAX(0123)72-6168

資料(2)ケアラー支援事業のプロセス

平成22年

■3月
介護保険事業からの撤退(民間の起業)
■9月
ケアラー実態調査の実施
■11月
「いのちのバトン」事業開始 (ケアラー世帯、70歳以上のひとり暮らし、夫婦世帯)

平成23年

■7月
「在宅サポーター」2名採用
■10月
地域支え合い補助事業実施 (在宅サポーター、ケアラー手帳、宅配電話帳)
■11月
「宅配電話帳」作成・配付 (3,000部 高齢者世帯)

平成24年

■1月
「熟年人材登録」開始
■3月
「ケアラー手帳」配付開始
■4月
「熟年ボランティアポイント」事業開始
■11月
「ケアラーズカフェ・サンタの笑顔」オープン
「ケアラー手帳」(新)完成

平成25年

■1月
「ケアラーサポーター養成研修」開始 (町民45名が受講)
■3月
平成25年版「宅配電話帳」作成・配付 (7,000部 全世帯)
■10月
「ケアラーサポーター養成研修」開催(第2回)

平成26年

■4月
「ケアラー支援サービスコーディネーター」の配置
「ケアラー度チェックアセスメントシート」導入
■7月
「笑顔の一枚プレゼント」事業開始
■10月
「見守り介護ロボット・ケアロボ」実証実験開始

平成27年

■2月
「見守り介護ロボット・ケアロボ」導入(6台)
■3月
「ケアラーサポーター」訪問開始

平成28年

■10月
角田地区に「ケアラーズカフェ」2号店オープン