福祉の現場から

町ぐるみで取り組む「食育」

2005年に食育基本法が成立し、食育という言葉が注目されるようになりました。
食育は「生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎」と位置付けられ
毎年6月が「食育月間」、毎月19日が「食育の日」に制定されています。
「食のまちづくり推進事業」を掲げて、地産地消に取り組み、栄養士連絡会議を組織し、
行政、生産者、栄養士などが連携して町ぐるみで「食育」に取り組む置戸町を訪ねました。

明治から続く「食育」の歴史

「食育」の歴史は意外に古く、1898(明治31)年の石塚左玄著『通俗食物養生法』のなかに「今日、学童をもつ人は、体育も智育も才育もすべて食育にあると認識すべき」とあり、子どもに対する、食教育の重要性が説かれています。食育は、子育てとしつけの基本だったことがうかがえます。
ところが、戦後の高度経済成長期、バブル経済期に至る日本の食生活の変化の中で、食育が大切であるという認識は薄れていました。しかし、1990年代後半になると、食は健康の源であり、生命のあり方に直結するという認識が高まってきました。食を真摯に考えるようになった背景として、軽食の増加による若年層の著しい咀嚼(そしゃく)力の低下、食料自給率の低さによる食料輸入の増加、外食産業の隆盛による食の画一化と食品ロス、栄養バランスの偏りによる生活習慣病の増加などの問題があります。
このような状況を踏まえ、2000年に「食生活指針」が策定され、2005年には「食育基本法」が成立しました。さらに「食育」は、幼児・学童の人間形成や健康な食習慣に役立てようとする教育運動に発展、「栄養教諭」が創設され、授業にも取り入れられています。また、伝統的な食文化、郷土理解、農山漁村の活性化と食料自給率の向上により食料の安全供給を図り、地球環境の保全の一助にしていこうとする地産地消活動も推進されています。

置戸町の「日本一の給食」

本物志向、地産地消、1年間毎日違う献立などで有名な置戸町の学校給食は、様々なメディアで取り上げられ、「日本一の給食」として全国から注目を集めています。その中核を担うのが置戸町学校給食センター(以下、給食センター)です。
「給食の母」と呼ばれる人物がいます。置戸町生まれの佐々木十美さん。短大を卒業後、1972年から給食センターの管理栄養士、2007年からは置戸小学校の栄養教諭を兼務しながら、給食ひとすじに40年以上も子どもたちと向き合ってきた人です。定年退職後の現在は教育委員会に籍を置き、「置戸町食のアドバイザー」として活動しています。
佐々木さんのこだわりは「地元の旬の食材を使って手間を惜しまず本物の味を出す」こと。佐々木さんの作るカレーライスは、19種類のスパイスを炒め、3週間寝かせた激辛の本格派。カレーは辛いもの。だから子ども用の甘口ルーは使わない。魚は骨付きが当たり前、ニンジン、ピーマンなど子どもが嫌いな食材も調理法、味付けを変えて何度も出し続ける。「子どもにこびない。食べ物では甘やかさない」。佐々木さんの妥協のない仕事ぶりが、置戸町の給食を日本一と呼ばれるまでに育て上げたといえます。

食のまちづくり推進事業

置戸町では平成24年度から「食のまちづくり推進事業」に取り組んでいます。代表的な事業のひとつが公民館サロン。地元の食材を使用した料理教室などを通じて、佐々木さんの指導のもと、多くの参加者に食育と地産地消の意識付けが進んでいます。平成25年度からは栄養士連絡会議が組織されました。病院、学校、福祉施設などの栄養士さんが情報交換し、生産者との意見交換を進めながら地産地消に取り組み、置戸の農作物を各施設に提供できる体制が構築されています。

 

子どもたちに感動を与える給食を 置戸町こどもセンターどんぐり

栄養士が音頭を取る「食育」

子どもたちに「置戸の食育」について話をする太田さん
▲「犬、うさぎ、とら、鶏。卵は誰の子?」クイズ形式で食材を教える太田さん。うさぎと答えた子が多かった(笑)

管理栄養士の太田晶さんに会うために認定こども園「置戸町こどもセンターどんぐり」(以下、どんぐり)を訪ねました。置戸小学校の栄養教諭で給食センターの管理栄養士を兼務する梶原成美さんも駆けつけてくださり、お二人に「置戸町の食育」について話を聞けました。
「食育という言葉があること自体がおかしなこと」と開口一番、太田さんは言います。「普通に家庭で受け継がれていくものが、学校とか、こういうところで教えていかなければできないというのは、異常なことだと思います」。厳しい意見のようですが、考えてみればもっともな話です。「十美さんは、そうなる前に動かれていて、栄養士という表舞台に立つ職業ではない立場の人が音頭を取ってやったというのは素晴らしいことだと思います」。

伝統食材「鹿肉」を給食に

置戸小学校の給食風景
▲置戸小学校の給食風景

太田さんが給食に取り入れて子どもたちに人気なのが鹿肉です。「栄養的なものが一番頭にありました。置戸の町名もアイヌ語で『鹿の皮を乾かすところ』という意味で、昔から置戸の食文化の中にあったと聞いて、これはいけると。子どもたちに必要な鉄分も豊富ですし、鹿肉を給食に出したいと理事長に話しました。保護者のお爺様や保育士の親御さんがハンターだったりという環境もあったりして、あとは保護者の了解をもらうだけでした」。
「パンの耳が固くて嫌いだとか、嫌いな理由を聞いたら、固いからという返事が返ってきます」と梶原さんが子どもたちの咀嚼力の低下を心配すると、太田さんは「その点でも鹿はいいんですね。適度に、固すぎず、柔らかすぎず、よく噛まないと呑み込めないですし。だから月に2回給食で提供して、咀嚼力を鍛えています」と笑います。鹿肉と地元のふきを使った給食は平成27年度の地産地消給食メニューコンテストで最高賞の農林水産大臣賞を受賞しました。「どんぐりの給食で毎月、鹿肉を食べていましたから、小学校でも鹿肉を食べたいと言っていますので、今度出そうかなと思っています」と梶原さんも意欲的です。

JAの協力で農業体験

子牛の哺乳体験を通して、チーズやバターなどの乳製品についても学びました
▲子牛の哺乳体験を通して、チーズやバターなどの乳製品についても学びました

収穫体験で芋ほりをする子どもたち
▲収穫体験で芋ほりをする子どもたち
クッキング体験で「肉じゃが」作りに挑戦
▲クッキング体験で「肉じゃが」作りに挑戦

どんぐりの調理室おやつのお菓子皿はオケクラフトの木工芸品
▲どんぐりの調理室おやつのお菓子皿はオケクラフトの木工芸品

どんぐりでは、JAきたみらい青年部置戸支部の協力で「どんぐり育食活動」を定期的に行っています。JA青年部では「自分の口に入る農産物がどのように作られるのかを実際に体験し、食べることの大切さを学んでもらおう」と、あえて”育食”と表現しています。いま農家でも、事故が多く危ないこともあり,お子さんを畑に入れさせないといいます。
「それで、あえて広い畑を借りて農業体験を組み込みました。小さいうちに置戸で採れた野菜の味を知り、その時の味や置戸の素晴らしさを置戸を出て行ったときにわかる。その時はわからなくても、そういうことでいいのかなと思います」。梶原さんも同様に「手間暇かけたちゃんとしたものをしっかり食べて、大人になった時の食生活につなげてほしいと思います」と言います。太田さんは「味覚を育てなくてはいけない思っていますので、本物の味をしっかりと覚えてほしい。細胞がどんどん育っていく時期なので、子どもたちを純粋培養したい。余計な添加物が入ったものは極力使いたくないし、しっかりとした舌と細胞で大きくなってもらって、大人になってから自分の舌でちゃんと選べるように育ってほしいと思います」。

栄養士連絡会議の活動

置戸町には栄養士連絡会議という栄養士だけの活動もあります。「地元の野菜を使いましょうということをやっていて、一つの施設では対応が難しいところがあるんですけど、各施設で連携して食材を融通し合って無駄にはしないとか。栄養士は各施設で一人の職種なので、いろんな施設の人から意見を聞ける場があるのはいいのかなと思います」。さらに梶原さんは「小学校は全員がどんぐりさんから上がってくる子どもたちなので、事前情報が入りやすい。アレルギーがある子がいるとか、クラスの雰囲気とかがわかるので連携できてよかったなと思っています」と言います。
どんぐりでは、子どもたちの月齢に合わせて、ご飯の固さも作り分け、一人ずつ配膳をするといいます。「卵やゴマにアレルギーのある子には、はんぺんとか練り物は全部だめですし、ゴマ油も使えません。アレルギーのある子は増えていて、大変な時代だと思います」と太田さん。「食育を本気で考えるのなら、各施設に一人ずつ栄養士を置いて、子どもたちの食べる様子を見守る人が必要だと思います。」
どんぐりで食べた給食がおいしかったと子どもが言っているので、レシピを教えてくださいと言ってくるお母さんもいます。「給食を介して親子で話をしてくれているんだなと思うとうれしいですね。ここで感動を与えて話をしてもらえるようにと思って献立を考えています。どんどん食べることについて親子で話をしてほしいですね」。
「おいしいものを食べる」というグルメ志向ではなく、食の意味を考え、感謝の念をもって「楽しく、おいしく食べる」ということが「食育」の第一歩だといえそうです。

社会福祉法人 信愛会
認定こども園 置戸町こどもセンターどんぐり

常呂郡置戸町字置戸398-85
電話(0157)52-3851 FAX(0157)52-3300
置戸町こどもセンターどんぐり 外観
平成20年、町内の4つの保育所と1つの幼稚園が1つになって、幼稚園の機能と子育て支援の機能を備えた保育所型認定こども園になりました。82名の園児のうち、10名が幼稚園型の園児です。「置戸の子どもたちは、どんぐりから小学校、中学校と1クラスずつしかありませんので、0歳から15歳までずうっと一緒に育って、兄弟よりも濃い結びつきがあります」と職員さんがおっしゃっていました。太田先生の給食で育った子どもたちは、小学校に上がれば、今度は梶原先生の「日本一の給食」が待っています。