福祉の現場から

災害時における地域福祉の役割

今年7月上旬、九州北部豪雨災害、9月中旬には石狩地方で集中豪雨が発生、日本列島を縦断した台風18号が北海道に再上陸し各地で爪あとを残しました。
雨の多い日本列島は、毎年のように集中豪雨による災害が発生しています。昨年の8月、台風10号による未曽有の豪雨により甚大な被害に見舞われた南富良野町を訪ね、被災者支援に対する地域福祉の役割を取材しました。

(1)空知川の堤防決壊箇所(2)食堂テーブルの上に避難する利用者さんたち(南富良野こざくら園)(3)敷地内が浸水した南富良野からまつ園(3階から撮影)

(1) 空知川の堤防決壊箇所
(2) 食堂テーブルの上に避難する利用者さんたち(南富良野こざくら園)
(3) 敷地内が浸水した南富良野からまつ園(3階から撮影)

ウェルビー・デザイン

グループホーム入居者の避難所生活(南富良野小学校体育館)
▲グループホーム入居者の避難所生活(南富良野小学校体育館)

福祉のまちづくりと災害

  「南富良野町台風10号被災者支援事業」のアドバイザーを務めたウェルビー・デザインの篠原辰二理事長を訪ねました。篠原さんは、紋別市と新ひだか町で社会福祉協議会職員として14年間勤務した経験を生かして福祉支援機関のサポートや防災ボランティアセンター等の組織づくり・運営を支援しています。

  篠原さんは「福祉のまちづくりは、災害にも強いまちづくりにつながる」ことを強調します。
  「災害があると高齢者や子どもたちなど日頃から支援が必要な人たち以外にも、元気な若者たちも被災しますので、福祉の支援が必要な方々が増えるのが災害なんです。福祉のまちづくりは、高齢者や障がい者に特化したものではなく、地域全体をどうやってよくしていくかという観点で考えていきますよね。福祉のまちづくりを丁寧にやっておけば、大きな災害時にも支援活動がうまく展開されます」。
  住民全体で普段から障がい者や高齢者を見守る体制や声かけができていれば、災害時の避難誘導や避難所での不自由な生活を支えるのにも力を発揮するといいます。

災害時に福祉ができること

  慢性的な人手不足の福祉現場の状況の中で、地域の人たちとの協力体制を構築していくことも福祉事業所の責務です。施設を地域開放して平時から福祉と住民との接点づくりも大事です。災害時には、地域の人たちが施設に避難してくるかもしれないことを想定して、受け入れ態勢を整えておく。地域の人たちに施設が何をできるのかを考えておくことで信頼関係が生まれます。
  「入所者だけでなく、在宅の方に対しても率先して避難を促す。その場合ショートステイの機能を活用してほしい。災害が起きなければ救助法は適用されませんが、災害が起きなかったとしても介護保険の中でケアできます。デイサービスでも同じです。利用日でなくても、利用日を振り分ければいいわけです。これは実際に沖縄県等ではやっていることです。施設が避難所として行政の指定を受けていれば、備蓄品も置かせてもらえますので施設の経費もかかりません」。

南富良野の復興に関わって

  「小さな町で起きた災害ですが、住民同士が顔見知りが多いということはものすごく力になっています。南富良野では行政職員も福祉職員も南富良野に住んでいる人たちです。支援する側も一住民であり、同じ被災者でもあるわけです。人と人の付き合いが密で、信頼関係も構築しやすいというところが南富良野の特徴かなと思います」。
  子どもたちの活躍も見逃せません。清掃や支援物資の仕分け、ブルーシートを張る仕事など、大活躍してくれました。子どもたちが汗を流す姿や被災者への声かけはとても励みになります。ボランティアの受け入れや活動もスムーズだったといいます。

一般社団法人 ウェルビー・デザイン

札幌市厚別区厚別南2丁目7-28
電話(011)801-7450 FAX(011)801-7451

平成24年設立。地域診断や地域調査など各種調査研究事業で培ったノウハウを生かして、地域コミュニティ形成支援、地域福祉人材の育成、ボランティアセンター運営支援など、社会福祉に関する相談・支援事業、各種講習会、セミナー等に講師を派遣。地域福祉推進機関や実践者支援のためのアドバイザーとして地域福祉の推進を図ることを目的として事業を展開しています。法人設立以来、アドバイザーとして訪れた地域は全国20都道府県に上り、最近では活躍の場を海外にまで広げています。

 

南富良野町社会福祉協議会

自衛隊にも救援支援を要請

  南富良野町では、この地区の水害は想定していませんでした。避難所として多くの避難者を受け入れていた保健福祉センター「みなくる」にも濁流が扉や窓を破って流入。1階に事務所を構える南富良野町社会福祉協議会も床上約80㎝ほどの浸水被害にあいました。避難していた町民は、道警や自衛隊に守られながら500m離れた小学校に避難する事態になりました。
  「ダムの上流部で堤防を越えるという水害はまったく想定していなかったんです。開発局でもその点の落ち度は認めていました。だから国もハザードマップを作っていなかったんです」と災害ボランティアセンターのセンター長を務めた社協の佐々木之孝事務局長は言います。

職員住宅で泥出しをする町社協ボランティア
▲職員住宅で泥出しをする町社協ボランティア

災害ボランティアセンター設立

  災害の翌日、いち早く災害ボランティアセンターを立ち上げたのは町民の有志でした。NPO法人どんころ野外学校スポーツインストラクターの内田さんです。社協にボランティアの問い合わせがあったとき、まだ誰もボランティアセンターの設立を知りませんでした。
  「災害ボランティアセンターは公的な組織でなければ道の支援金は使えません。個人的にやっているものを我々が支援するわけにもいきませんから、話し合って正式に組織化し、社協が中心になって町民体育館に事務所を設置しました」。
  東日本大震災でもボランティア経験がある内田さんが副センター長を務め、延べ5982人のボランティアを受け入れました。どんころ野外学校のスタッフも南富良野町の魅力ある自然を元に戻そうと最大限の力を貸してくれました。
  「本州から来たアウトドア産業の若い人たちを町として受け入れてきたことも大きかったと思います」。
  仮設住宅の話も出ました。「北海道の場合、断熱材がないと住めない。本州とは家の構造が違いますから、簡単に建てられないんです。空いている住宅に入っていただくか、復興を早めて家に帰っていただくのが一番だとなりました」。今後の被災者支援の課題となりそうです。

災害の経験を今後の教訓に

  「最後は住民とどう付き合っているかだと思う」と佐々木事務局長は言います。「社協の職員は一人ひとり高齢者の家を手分けして訪問したりしていますから、安否確認もすぐにできました。普段から顔を合わせて話ができる人材を養成しなければならないと思いました」。
  被災から1年。災害の記憶を記録として残しておこうと、北海道新聞の補助金で記録集をウェルビー・デザインの篠原さんが中心になって作成しています。「最終的には報告書を全道の主だったところに配付して、今後の参考のために役立てようと思っています」。

(社福)南富良野大乗会

まったく想定外の水害

  8月31日、市街地では土砂降りの雨というわけではありませんでした。深夜には一時的に雨も上がって星空も見えました、そんな状況の中で水害が起きるなど想像もしていませんでした。
  「空知川の堤防が決壊して、深夜2時頃、施設の東側から水が入ってきました。幸いなことに、からまつ園は3階建てですから、1階の利用者さんを2階へ、グループホームの利用者さんを3階へ避難誘導しました。エレベーターも止まりましたので、自分で歩けない利用者さんは職員が負ぶって避難しました」と語るのは南富良野からまつ園の杉村博史施設長。当時は南富良野こざくら園の施設長として勤務していました。平屋建てのこざらく園では、より状況は深刻でした。
  「夜10時頃、停電になったんです。その対応策として職員に召集をかけていました。13人の職員でシーツや毛布を土のう代わりに浸水を防ぎながら、まず利用者さんを起こし、比較的安全だと判断した食堂に集めました」。利用者さんたちは食堂のテーブルに上がって不安な一夜を過ごしました。もうその時点では、からまつ園に避難することは不可能な状況だったといいます。

復興への誓いを込め「笑」の人文字を作る利用者さんたち
▲復興への誓いを込め「笑」の人文字を作る利用者さんたち

利用者さんとの信頼関係が重要

  「私も職員も慎重に言葉を選びながら声かけをし、安心できる環境を作ることを心がけました。幸いなことに利用者さんは比較的落ち着いていました。職員に対する信頼があったからこそだと思います。そこが一番重要だったと思います」。
  災害があって、その日のうちに北北海道知的障がい福祉協会の方が対策本部を立ち上げてくれました。翌日からは道路の開通を待って障がい関係の職員の方々、高齢者関係の職員の方々、総勢約1千名のボランティアが約2週間にわたって復旧作業を手伝ってくれました。
  「その間、特養の入所者を一時的に管内の他の施設に分散したり、家族にもお願いして一時帰宅させてもらったり、施設を空っぽの状態にして復旧作業にあたりました」。
  法人内の施設で一番被害が大きかったのは「なんぷ~香房」です。床上浸水1m20cm、建物、電気系統、パン焼き機、備品、車3台が被害にあいましたが、昨年12月にリニューアルオープンにこぎつけました。
  「正直言いまして、私は自宅のことは一切頭になかったですね。何とか利用者さんと職員を守らなければならないという思いだけでした。家族には申し訳ないんですけど」と杉村施設長は当時を振り返ります。
  5施設と職員住宅が被災した南富良野大乗会では、平成29年度の年間事業テーマに「共に創る笑顔」を掲げ、復興に向けて力強く歩んでいます。

社会福祉法人 南富良野大乗会

空知郡南富良野町字幾寅528-2
電話(0167)52-3000 FAX(0167)52-2088

社会福祉法人南富良野大乗会 外観
昭和55年、社会福祉法人「南富良野大乗会」設立。翌56年、障がい者支援施設「からまつ園」開設を皮切りに、森と湖に囲まれた南富良野町の豊かな自然環境の中、障がい者支援施設と高齢者介護施設の2本柱で福祉事業を拡充してきました。
法人のシンボルマークは、「すべての人々が手に手を取って助けあい、ともに生きる『大乗の心』を育てる」という法人の基本理念を表現したもの。利用者の希望・自立・幸せのために、地域における人々の和と輪を大切にしながら、
限りない福祉の心の広がりを実現するため、職員一丸とな
って努力しています。

障がい者支援施設「南富良野からまつ園」、
「南富良野こざくら園」
共同生活援助事業所「ぴあ」(グループホーム9ヵ所)
障がい福祉サービス事業所「なんぷ~香房」
特別養護老人ホーム「ふくしあ」、「一味園」