福祉の現場から

最期まで尊厳ある生活を支援福祉施設における看取り介護

高齢や病気などにより衰弱が著しい場合、医療機関で療養することが一般的でしたが、近年では、看取り介護を希望する人が増え、看取り介護を行う施設が増加しています。人生の最期を迎えるために、施設での看取りがよいのか、病院で最大限の医療を尽くすべきなのか、正解はありません。本人にとって何が幸せな最期なのか。揺れ動く家族の思いを受け止め、日々の生活を支えるために何が必要か。開設当初から看取り介護を行っている特別養護老人ホーム「コスモス苑」を訪ね、看取り介護の現場を取材しました。

 
 

看取り介護とは

コスモス苑の「終末期ケア」の職員研修
▲コスモス苑の「終末期ケア」の職員研修
看取り介護には、プライバシーを保つため全室個室のユニットケアが適しています
▲看取り介護には、
  プライバシーを保つため全室個室の
  ユニットケアが適しています

  看取り介護について平成26年に発表された全国老人福祉施設協議会の「看取り介護指針」では以下のように定義されています。「『看取り介護』とは、近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援すること」。
  高齢者介護の基本は「尊厳の保持」であり、特別養護老人ホームは、入居者本人が個人として尊重され、その人らしい生活を送れるよう支援することが求められています。看取り介護もその延長線上にあります。とはいえ、死は人間にとって最も厳かな瞬間であり、終末期の生活を支える看取り期間は、尊厳ある人生を全うするための重要な期間です。看取り介護においては、身体の衰弱に伴い、より手厚い介護と適切な支援が必要になります。ご家族に対しても、悔いのない看取り期間をご本人とともに過ごしていただけるよう、丁寧な説明と配慮が大切です。また、看取り介護には、介護保険で決められている看取り加算料金が発生します。亡くなられる前の30日間は7,000円前後の上乗せになり、ご家族の自己負担となります。

看取り介護の職員研修

デスカンファレンスでの振り返りの様子(右端が新井相談員、左から2番目が中田看護課長)
▲デスカンファレンスでの振り返りの様子
  (右端が新井相談員、
  左から2番目が中田看護課長)

  特別養護老人ホーム「コスモス苑」では、開設当初から積極的に看取り介護に取り組んでおり、過去5年間で33人の入居者を施設内で看取っています。札幌市郊外の閑静な住宅街に位置するコスモス苑を訪ね、生活相談員の新井元規さんと看護課長の中田良子さんに話を聞きました。
  「年に1回、看取り介護に関する研修をしています。また、看取り介護の入居者様が亡くなられた後、ご家族にアンケートをいただいたうえで、デスカンファレンスという振り返りの会議を全職種が集まって実施しています」。その経験と話し合いを集積したものを看取り介護マニュアルに反映させて、次の看取り介護に生かす体制構築ができていると新井さんは言います。
  「新人研修の段階から、すべてのケアの一環の中に看取り介護も取り入れています。死を目の当たりにするということは、新人職員であれば身構える部分があるんですが、死に直面した経験がある職員が大多数を占めていますので、ベテラン職員が新人職員を教育して、経験を伝え、実際の看取り介護に入ってもあわてないような教育体制ができています」。看取り介護研修は特別な教育ではなく、日常のケアの中に根づいているのです。看取り介護を経験することで、施設職員の日常的な介護業務に変化は現れるのでしょうか。
  「看取り介護を経験したからといってすぐに何かが変わるということはないんですが、ご臨終を目の当たりにするという貴重な経験をした新しい職員は『襟を正す』ではないですけど、その方の最期まで関われるというところでのプライドが、いい意味で強化されると思います。日常のケアが丁寧になったり、少なからず影響は出てきます」。

看護師から見た看取り介護

  国立の急性期病院で31年看護に携わってきた中田さんは、コスモス苑に来て1年ほどになります。
  「私たち看護の世界で習うことは、看取り期には口腔ケアの徹底と、口から食べられなくなると最期の時が近いということです。食べられなくなったときに病院側は胃瘻(いろう)を勧めます。誤嚥性肺炎になったりすると家族は揺れ動きますね。選択は家族に任せています。がんや心臓疾患などのある方は多量の薬を飲んでいる方が多い。看取りに入ってきますと薬が飲めなくなっていきます。そうするとダイレクトに影響が出ますから、残り時間が短くなります。基礎疾患についても考えないといけないなあと思いました」。中田さんは看護師の立場から、介護職員にも医療的な勉強も必要だと言います。

家族への丁寧な説明

ご家族のご希望があれば苑内葬儀にも対応しています
▲ご家族のご希望があれば苑内葬儀
  にも対応しています

  「入居時に看取り介護の希望も伺うようにしています。実際にその時が近くなったら詳しいお話をさせていただきますと前置きしたうえで、どういった最期を希望されるのかということを、今の段階のお気持ちで結構なので伺ってよろしいですか、と極力ソフトな言葉でお聞きするようにしています。これから生活していく中で揺れ動いて、最後に気持ちが変わったとしてもまったく差し支えありません、ということもきちんと伝えます」。
  施設でできること(コスモス苑看取り介護講演資料参照)と、できないことを説明することも重要です。実際には、同意書を交わした後、やっぱり最期は病院で治療してほしいと希望する家族は、ほとんどいないのが実情だそうです。
  日頃のケアにおいて、ご家族と職員との信頼関係が築けていれば、いざ看取りに入るというときにも、自然に看取りに同意していただけるといいます。いかに普段の日常的なケアできちんと信頼関係を築けるかということが、最終的な看取り介護の達成につながります。普段の介護の延長線上に看取り介護があるとは、そういう意味です。
  日常のケアにこそQOL(クオリティ・オブ・ライフ)は大事ですが、人生の最期を迎える看取り期においては、一段階高いレベルでのQOLが大事であり必要とされます。
「治療のために入院されて、入院中に最期が近いと診断された方も、ほとんどの方は、最期は少しの期間でもいいのでコスモス苑に戻って最期を迎えたいと言います。慣れ親しんだ環境で、なじみの職員や入居者様とともに最期を迎えたいという気持ちのほうが自然なのかなという気がします。その気持ちには可能な限り対応するようにしています」。

介護職員の精神的ケア

  看取り介護が終了した(逝去された)とき、一番その方に接していた介護職員は「もっとこうすればよかった」「もっとできることがあったのでは」といったストレスや後悔の念にかられることも多いといいます。
「亡くなること自体は避けられないことなので、そこに関して『よくやれた』といったフィードバックも当然必要だと考えています。精神的な負担を軽くするということと、反省点として挙がっていることを次に生かせば、より良い看取りケアができるという方向で話をすると、結果的に精神的ストレスの軽減になると思っています」。
  病院を退職後、全道の高齢者施設を回って歩いたという中田さんは、その経験から、「教育ってすごく大事だなあと感じました」と言います。ここに勤めているから褒めるわけではないが、と前置きして、「コスモス苑の介護職員はプライドを持って働いているなと感じます。入居者様に対して決して声を荒げない。常に敬語で接していますし、最期まであきらめない。最期まで床ずれを作らないようにしているとか、マットレスの交換なども介護職員から要求してきます。介護職員に看護師と同じレベルでケアしたいというプライドがあるんですね。私はここへ来て1年ですが、入居者様は本当にきれいな最期を迎えています。福祉施設は入居者様の生活の場だという認識が非常に強いんですね」。

全職員の連携が必要

  他の施設の看取りの状況を聞くと、進んでいない原因の一つが、看護師の協力がなかなか難しいという話をよく聞くという新井さん。「いま中田は医療の立場から介護職員の質の良さを言ってくれたんですけど、相談員、介護職からすると、看護職のトップが協力的に、介護職員側の立場をフィードバックしてくれるということも非常に重要だと思っています。ケアの部分は介護職員が大部分を占めるんですけど、既往のある方がほとんどですので、薬のコントロール、水分補給のための点滴といった部分では、看護職がいないと介護の質が保てません。看護職と介護職だけでなく、全職員がお互いを尊重しながら連携してケアにあたっていけるということが、コスモス苑の看取り介護の強みにつながっていると思います」。
  最後に、「入居者様が安心して最期を迎えられるよう、そして入居者様とご家族が人生の最期の場所としてコスモス苑を選択していただけるよう、これからも職員一同研鑽を積んでまいります」と力強く語ってくれました。

コスモス苑の看取り介護講演資料(一部抜粋)

コスモス苑で出来る事
(1)お食事について…ご本人様の状態に鑑みご家族様のご希望も伺い、
    最後までお口からお食事が出来るように、色々な選択肢をご提案させて頂きます。
    施設として通常提供している食事形態(常食、きざみ食、ミキサー食、ソフト食)の他に、
    ご希望に応じて特別食(通常の食事代の他に自己負担が生じます)のご提供も出来ます。
(2)医療について…コスモス苑は生活施設ですが、病状に合わせたお薬の処方、
    診察・検査目的での通院など、柔軟に対応させて頂いております。
    看取り介護が開始になってからも、ご家族のご希望を伺った上で、
    例えば水分補給目的での点滴等、できうる限りの医療処置は可能です。
(3)胃瘻について…飲み込む力が弱くなると、
    誤嚥(食物等が何らかの理由で、誤って食道ではなく気管に入ってしまう状態)
    の危険性が高くなり、お口からの食事摂取が難しくなります。
    その際の選択肢の一つとして「胃瘻(胃に接続しているチューブから直接栄養を流す)」
    があります(入院手術が必要です)。
(4)痰の吸引について…ご自分で痰を吐き出すことが難しく窒息の危険性が高い方の場合、
    必要に応じて看護師が吸引装置を使用して、カテーテルで痰の吸引を行います。
    ※但し夜間帯は看護師が不在の為、夜間も痰の吸引が頻回に必要な場合は、
    入院も含めてご相談させて頂きます。
(5)がん(悪性腫瘍)に罹患している場合…がんは通常の病気と異なり、
    終末期には強い痛みが伴うことがあります。
    がんに罹患されている方がコスモス苑での看取りを希望される場合、
    終末期医療に詳しい外部の訪問診療医の協力を仰いでいます。

    ※医療保険での自己負担が発生します。

社会福祉法人 彩世会

札幌市豊平区月寒東4条10丁目8-30
電話(011)859-3311 FAX(011)859-3322

社会福祉法人彩世会 外観
平成14年札幌徳洲会として法人設立。翌15年特別養護老人ホーム「コスモス苑」開設。平成25年に法人名を彩世会に変更しました。コスモス苑(定員60名)は、全室個室ユニット型施設です。プライバシーが確保された生活空間で10人を1ユニット(生活単位)とし、「その人らしさを尊重し安心して暮らせる施設」の理念のもと、個々のニーズや家族の想いを尊重し、入居者が楽しく健やかに生活していただけるよう、まごころを込めたケアの提供を行っています。
特別養護老人ホーム「コスモス苑」
コスモス苑デイサービスセンター
コスモス苑指定居宅介護支援事業所
地域密着型特別養護老人ホーム「コスモス苑さとづか」
コスモス苑さとづかショートステイ