福祉の現場から

まちづくり、地域活性化は、人づくりから『さをり』が織りなす地域交流の輪

「さをり織り」は、全国の多くの福祉施設で取り入れられている織物です。
その「さをり織り」の特性に注目し、研究テーマに選んだ高校生がいます。
また近年、閉店が相次ぎ商店のシャッターが目立ちはじめた駅前通りの
活気を取り戻そうと福祉施設と学生たちが手を携えて立ち上がりました。
名寄みどりの郷と大学生・高校生のまちづくりにかける思いを取材しました。

「さをり織り」に込められた思い

  「さをり織り」は、昭和43(1968)年、大阪府堺市生まれの城みさをさんが57歳のときに創始されました。色や材質、太さなど素材の異なる縦糸と横糸を組み合わせて、感性のまま自由に布を織るユニークな手織りプログラムです。「さをり織り」では「機械のマネはしない」ということをスローガンとしています。均一・均質、パターン化されたものから抜け出し、常識や既成概念にとらわれず、心の赴くままに織ることで、織り手の感性が最大限に引き出されます。縦糸が1本抜けていれば織物の世界ではキズモノといわれますが「さをり織り」では、それは織り手の個性です。その発想の転換から「さをり織り」は生まれました。趣味としてだけでなく、高齢者の日中活動や障がい者の就労支援の一環としても導入されている理由はそこにあります。
  「教えない。感性を引き出すのだ」。創始者の城さんの言葉です。「教えない」という意味は、その人の人格を認め、自分でやりたいように自由に織らせるということです。教えるということは、価値観の押し付けにつながります。(株)SAORIの常務・城哲也さんは「まだまだ指導者は、教えすぎていると思います」といいます。
  老若男女、障がいの有無、国境を越えて、すべての人々が楽しむことができる手織り。この「差異を織る」ということから「さをり織り」と命名されたそうです。

晩年も毎日、織機に向かっていた城みさをさん
晩年も毎日、織機に向かっていた城みさをさん

株式会社 SAORI

大阪市都島区中野町5丁目13-4
電話(06)6921-7811 FAX(06)6921-8255

(株)SAORIでは全国に手織り教室として直営塾を9ヵ所に開塾。国内はもとより世界56ヵ国、少なくとも10数万人の人々に愛好され、2千を超える教育機関、障がい者施設、高齢者施設などで取り入れられています。「さをり織り」を創始し、その普及に尽力された城みさをさんは、今年1月10日、老衰のため満104歳でお亡くなりになりました。
(株)SAORIのスタッフは城みさをさんの遺志と理念を受け継ぎ、「さをり織り」の普及活動を続けています。

 
 

名寄丘の上学園の駅前進出

利用者さんが心を込めて織った作品の数々
利用者さんが心を込めて織った作品の数々
街の人の顔が見えることが利用者さんの励みになります
街の人の顔が見えることが利用者さんの励みになります
利用者さんから「さをり織り」を教わる名寄産業高校の稲川美彩さん
利用者さんから「さをり織り」を教わる名寄産業高校の稲川美彩さん

  (社福)名寄みどりの郷が運営する障がい者支援施設「名寄丘の上学園」では20年ほど前から利用者の日中活動として「さをり織り」を取り入れています。
  「『さをり織り』にはルールがありません。利用者さんの自由な作品はすべてがオリジナルであり、オンリーワンなのです」と生活支援員の橋本貴也さん。法人では2010(平成22)年に「さをり織り」の日中活動の場を駅前商店街に開設しました。展示・発表・販売のギャラリーを併せ持つ「アクティビティスペース&ギャラリー楽描き(らくがき)」です。法人では、商店街に閉店する店舗が増えてきたことを受け、2009(平成21)年に法人理念を見直しました。「地域福祉の向上に寄与する」ことを中心に据え、空き店舗を利用して地域活性化をめざす取り組みを開始しました。「楽描き」には市民との交流の場「まちなか交流スペース」も併設。名寄市立大学の学生と丘の上学園が共同で運営委員会を組織し、学生が主体となって月2回の日曜日イベントを企画、運営しています。
  「人材確保・育成という狙いも、もちろんあります。もう一つは、市立大学ですから、他のまちや道外から来た学生たちにも名寄のまちや人を知ってほしいという思いがあるんです」と横田一真施設長は、学生たちと共同で活動する意味を語ります。
  さらに駅前通りのシャッター街をこじ開ける地域活性化の活動は続きます。就労継続支援B型事業所として手づくりパンと豆腐の店「ハートフル・みらい」を開店、陶芸工房として丘の上陶房「釉楽器(ゆらぎ)」開設。釉楽器2階には「放課後等デイサービス遊楽(ゆらく)」を併設しています。
  そんな中、2017(平成29)年、「さをり織り」を研究テーマとする名寄産業高校家庭クラブの生徒が「楽描き」を訪れ、高校生との交流も始まりました。高校生たちは利用者さんたちとの交流の中で「さをり織り」を覚え作品づくりに取り組むとともに、多くの市民に「さをり織り」の魅力を発信しています。
  家庭クラブの活動は地元新聞でも大きく取り上げられました。「高校生たちのおかげで法人名も施設の活動もまちの人に知ってもらうきっかけになりました。高校生とも大学生とも交流ができましたので、後輩にも受け継がれていけばいいですね。私たちも継続性を大切にして、地域活動を続けていきたいと思います」と横田施設長。施設の駅前進出も来年10年目を迎えるにあたり、横田施設長の目は、もう次の展開を見つめています。
 
 

名寄産業高校家庭クラブ

交通安全を呼びかけながら反射マスコットを配布
交通安全を呼びかけながら反射マスコットを配布
さをり織りを使った反射マスコット
さをり織りを使った反射マスコット
大人から子どもまで幅広い年代を対象に「さをり織りを使った小物づくり教室」を開催
大人から子どもまで幅広い年代を対象に「さをり織りを使った小物づくり教室」を開催
警察官の制服をまとった家庭クラブのメンバー左から稲川さん、岩崎さん、小神さん、橋元さん、内田先生
警察官の制服をまとった家庭クラブのメンバー左から稲川さん、岩崎さん、小神さん、橋元さん、内田先生

  名寄産業高校家庭クラブは、生活文化科の全生徒81人が所属し、20年も続くJR名寄駅待合室への手づくり座布団寄贈や同校キャンパスから名寄駅までの通学路の清掃など、地域貢献活動を行っています。
  同校家庭クラブの稲川美彩さん(会長)、岩崎愛華さん(副会長)、橋元菜摘さん、小神麻那香さんの4人は、「さをり織り」をテーマに『さをりでつむぐ地域の絆~つながる心、笑顔とともに~』と題して北海道高等学校家庭クラブ連盟研究大会において研究を発表。最優秀賞を受賞し、同校としては4年ぶりの全国大会出場を決めました。今年7月、東京で開催された全国大会では、より研究を深めて臨み、14クラブ中「学校家庭クラブ活動の部」で3位入賞となる「東京都教育委員会賞」を受賞しました。
  顧問の内田恵子先生から「さをり織り」という初めて聞く織物が名寄にあるということを聞き、家庭クラブの4人は興味を持ちました。事前調査をするなかで、自由な発想で、織り手の感性のままに織る「さをり織り」は、障がい者や高齢者のリハビリにも役立ち、多くの福祉施設で取り入れられていることを知り、「さをり織り」を研究テーマに選びました。さらに、名寄で唯一「さをり織り」を取り入れている名寄丘の上学園の「楽描き」を訪ね、実際に機織りも体験。また、全道大会の後、名寄丘の上学園に招かれ、多くの職員の前で研究発表も行いました。
  名寄警察署で、「夜間の歩行者事故防止のための反射マスコットはシンプルなデザインが多く、高齢者が好んで身につけない」という課題があると聞き、「さをり織り」の温かさを生かした反射マスコットを制作。この交通安全活動への取り組みが評価され、名寄警察署から感謝状が授与され、「春の全国交通安全運動」において「一日警察署長」に任命されました。駅前通りの西條名寄店1階「ここほっと(名寄市社協多分野・多世代地域活動拠点)」で毎月第4土曜日に開催される「まちなかマーケット」では、家庭クラブのメンバーが制作した「さをり織り作品展&販売会」も行われました。
  高校卒業後は言語聴覚士を目指すという稲川さんは「2年間の活動を通して、リハビリにも効果的な『さをり織り』について学べて良かったです」と語ります。
  家庭クラブの研究発表は最後に、こう力強く結ばれています。
  「『さをり織りの持つ個性豊かな特徴』は、私たち自身にも当てはまることだと感じました。人を思いやり、相手を尊重する気持ちを忘れず、今後も名寄市の新しい魅力『さをり織り』を通して、地域とつながる活動を続けていきたいと思います」。

社会福祉法人 名寄みどりの郷 障がい者支援施設 名寄丘の上学園

名寄市緑丘9-1
電話(01654)3-9222 FAX(01654)3-9772

名寄みどりの郷と地域とのつながり

平成20年9月 丘の上フェスティバル
名寄市のイベントが年々、規模を縮小していく中、
施設のお祭りを市内中心部へ移動。
市民参加のイベントとして、
現在は参加者1000名を超える秋の恒例のお祭りとなっています。
平成21年4月 法人理念・使命、事業計画の見直し

名寄駅前通りに進出した事業

平成22年 5月 アクティビティスペース&ギャラリー楽描き(らくがき)開設
平成22年10月 パン工房ハートフル・みらいリニューアルオープン
平成23年 5月 丘の上陶房「釉楽器(ゆらぎ)」開設
釉楽器2階にレスパイト(障がい児一時預かり)センター開設
(後の放課後等デイサービス事業)
平成24年 4月 相談支援事業所いんくる開設
5月 放課後等デイサービス事業所遊楽(ゆらく)開設
7月 まちなか交流スペース(サロン)オープン
平成26年 6月 児童発達支援事業所遊楽(ゆらく)開設