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福祉の現場から

vol.134

人と社会をつなぐ『手話』

手や指で表現する手話が、日本語と同等の言語だということを知っていますか?
札幌聴覚障害者協会では、手話の普及を目的にさまざまな活動を行い、耳の聞こえない人たちが安心して暮らせる社会の実現を目指しています。
聴覚障害者にとって手話がいかに大切か、言語としての手話の必要性など、「手話」に焦点を当て、理事長の渋谷雄幸さん、事務局長の京野大樹さん、手話通訳士の渋谷悌子さんの3人にお話をうかがいました。

2018年3月に施行 札幌市手話言語条例

札幌市の聴覚障害者は、2022年3月31日時点で5,331名。ただし、これは身障者手帳を持っている人の数で、たとえば高齢になって聴力が低下し、人の声や音が聞きづらくなるなど、難聴の症状を持った人を含めると、その数はさらに増えることが予想されます。
「海外と比べ、日本は聴覚障害の基準が厳しいため、そうしたデータだけで計ることはできません」。そう教えてくれたのは、札幌聴覚障害者協会の理事長を務める渋谷雄幸さん。
同協会は、手話を使って暮らす聴覚障害者によって1947年に創られた団体です。手話を言語ととらえ、人と人、人と社会をつなぐコミュニケーションの手段として認知されるようさまざまな活動を行ってきました。2006年12月、国連総会で採択された『障害者権利条約』に手話が言語であると明記されたことをきっかけに、同協会でも『札幌市手話言語条例』の制定を働きかけ、2018年3月に成立・施行の運びとなりました。これにより、札幌でも手話が日本語と同等の言語として認められることになったのです。
「聞こえないから手話が必要という考え方ではなく、音声言語と同じようにみんなが使うことばとしてとらえてほしい。それが私たちの願いです。以前と違い、最近は講演会などでも手話通訳を準備するなど、社会も少しずつ変わってきています」。渋谷理事長のそのことばも、手話通訳者を通して伝えられます。

「耳の日市民のつどい」の様子

手話通訳者を派遣し、聴覚障害者をサポート

生まれつき耳が聞こえない聴覚障害者にとって、手話は意思や感情を伝えたり、考えたりするうえで唯一無二の方法です。それは、耳が聞こえる人にとっての日本語と同じ。つまり、手話とは、手や指、表情などによって日本語と並ぶ言語表現される独自の文法を持った言語なのです。勘違いされがちですが、日本語を手の動きに置き換えたものではありません。確かに中途失聴者に対しては、日本語の文法に応じた手話を使います。全日本ろうあ連盟では、それを含めたすべてを手話という一つの言語として理解することを推奨しています。
「聴覚障害者は、生活のあらゆる場面で不便を感じています。たとえば、病院では名前を呼ばれても気づくことができません。診断の結果を筆談で受けても、間違って理解してしまい、病状が悪化してしまったというケースもあります」と渋谷理事長。
そうした現状を踏まえ、同協会では、札幌市からの委託事業とあわせて、独自に手話通訳者派遣事業を行っています。1985年には勤医協札幌病院に専任手話通訳者1名を配置。現在は非常勤3名体制で、年間1,000名を超える聴覚障害者をサポートしています。1991年には市立札幌病院に手話通訳者設置を働きかけ、実現へと至りました。また、医療機関だけでなく、司法、教育、雇用など社会生活に関わるさまざまな場面に手話通訳者を派遣しています。

"耳が聞こえない"とは?
理解を深めることが大切

耳が聞こえない人の悩みは、コミュニケーションの問題だけではありません。聴覚障害は外見からはわかりにくいこともあって、誤解を受けたり、不利益を被ったり、さらには危険にさらされたりすることもあります。
「大声を出せば聞こえると思われたり、聴覚障害者とどう接していいかわからず、身構えられたりするので、普段の生活でもサポートをお願いするのをためらってしまいます。災害ともなると、私たちは耳で情報を拾えないため、逃げ遅れたり、聴覚障害者とわかってもらえず支援が遅れ、命を落としてしまうこともあります」と話すのは、事務局長の京野大樹さん。
『札幌市手話言語条例』は、手話を言語として認知するだけでなく、聴覚障害者にとっても住みよい社会を実現しようというもの。そのためには、何より聴覚障害者への理解を深めることが大切です。京野事務局長は「耳が聞こえないとはどういうことか、それが分かれば誤解や偏見もなくなるのではないかと思っています。聴覚障害を扱ったドラマなどもあるので、そういったもので耳が聞こえない人のことを知ってほしい」と話しています。
現在、同協会のろう職員4名が主になって、福祉・保育の専門学校や大学に講師を派遣しています。また、小・中学校の総合学習で手話を紹介するなど、手話に関心・興味を持つ機会を提供しています。
「私たちの協会は札幌手話サークル連絡協議会ともつながっています。同協議会は手話を学び、耳の聞こえない人と友だちになって共に安心して暮らせる社会をつくっていくことを目的としており、現在は17のサークルが加盟しています」と京野事務局長。
今は手話に関する動画もインターネット上に数多くアップされ、気軽に手話を学べる環境が整っていますが、実際に聴覚障害者とふれあうサークルでの活動は、彼らのことを知る絶好の機会ともなります。

本格的に学ぶ手話講座
レベル、目的別に開講

同協会では、手話を基礎からしっかり身につけたい、手話通訳者になりたいという人のために、札幌市の委託事業として「札幌市手話講習会」「札幌市中級手話講習会」「札幌市手話通訳者養成講座」を毎年5月に開講しています。いずれも週1回で、受講期間は半年から1年半。この3つの講座を受講し、手話通訳者全国統一試験に合格すれば、手話通訳者として活動することができます。より上を目指したい人は、厚生労働大臣が認定した「社会福祉法人聴力障害者情報文化センター」が実施する手話通訳技能認定試験を受け、手話通訳士の道へ。手話通訳士になれば、政見放送や行政機関など、活躍の場が広がります。
手話通訳士の資格を持ち、同協会のコミュニケーション支援課に籍を置く渋谷悌子さんは、次のように話しています。
「手話を習いはじめた当時は、聴覚障害者に対する差別や偏見も今よりずっと多く、制度もそれほど整っていませんでした。そうした中にあっても、社会に対してきちんと意見を伝え、困難を乗り越えようと、明るく前向きに活動に取り組む彼らの姿に感銘を受けたのが、私が手話を続けている理由です」。
手話講座は札幌市主催のもの以外に同協会が主催するものもあり、初心者向けをはじめ、医療や接客ほか職業別の手話教室など、レベルや目的に応じた講座を多数開講しています。

「はじめての手話教室」の様子

求められる手話通訳者
手話が通じる社会へ

同協会が目指すのは、耳の聞こえない人が手話でコミュニケーションができ、安心して暮らせる仕組みを札幌市につくること。その一環として、地域活動支援センター、就労継続支援B型事業所、グループホームなどの福祉施設を運営しています。いずれも、聴覚障害者に特化した施設のため、すべてに手話ができるスタッフを配置していますが、多くの福祉施設ではまだそうした体制は整っていません。
「手話が必要なときは、当協会を利用してください。手話通訳者が耳の聞こえない方との会話をつなぎます。日常的に手話が求められる場合は、ケアマネジャーや介護スタッフの方が手話を習得するのが一番です」と手話通訳士の渋谷さん。
事故や病気で耳が聞こえなくなるなど、聴覚障害はだれにでも起こり得るもの。たとえそうなっても、手話が通じる世の中であれば安心して生活することができるはずです。「手話は聴覚障害者に限らず、多くの人に必要な言語といえるのではないでしょうか」。
渋谷理事長は手話でそう問いかけています。

公益社団法人 札幌聴覚障害者協会

札幌市中央区大通西19丁目
札幌市聴覚障がい者情報センター内
TEL 011-642-8010 FAX 011-642-8377
E-Mail houjinjimukyoku@sadeaf.jp

1947年2月、札幌聾唖交友倶楽部として発足。数度の改称を経て、2011年4月に公益社団法人に認定され、現在の名称へ。札幌市の委託事業として、手話通訳者の派遣などを行っているほか、独自に手話教室、学校への手話講師の派遣、出版・書籍販売などの事業を展開しています。また、2017年4月には、日本で初めて聴覚障害者が手話を使って暮らせるサービス付き高齢者向け住宅「ほほえみの郷」をオープン。そのほか、各種福祉施設の運営を担い、さまざまな側面から聴覚障害者の生活を支えています。

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