福祉の現場から
vol.135
置戸高校の取り組み

道内で唯一の福祉科単置校として福祉教育を実践し、介護福祉士を中心に、福祉分野の担い手を育成している置戸高校。
少子化が進む中、SNSやオンライン説明会など、時代の潮流に沿ったツールを活用し、全国の中学生に入学を呼びかけています。
その斬新な広報活動から教育方針、介護福祉士国家試験合格実績、寮生活まで、新しい試みにチャレンジし続ける置戸高校を取材しました。
2010年
福祉課単置校へ転換
オホーツク管内に位置する北見市から車で約40分。道産の木材を使った地域クラフトブランド「オケクラフト」で知られる置戸町は、面積の8割以上を森林が占める人口約2,651人(2023年5月31日現在)の町です。少子化や人口減少などにより、近隣の高校が相次いで閉校となる中、72年の歴史を持つ置戸高校は時代に呼応する取り組みにチャレンジしてきました。1990年に「福祉教育に関してのパイロットスクール」に指定されて以来、ノウハウを積み上げ、2010年には道立高校で唯一の『福祉科単置校』として、新たな一歩を踏み出しています。
「本校では介護福祉士を中心に、介護の担い手を育成する教育に力を注いできましたが、これからは地域福祉や社会福祉に対応した教育も必要だと考えています。そこで、昨年度の入学生から2つのコースを設け、学びの幅を広げました」。そう教えてくれたのは、先頭に立って改革を進める教頭の後藤幸洋さん。
これにより、3年生へ進級する際、介護福祉士国家試験の合格を目指す「プロフェッショナルコース」と、福祉の知識を生かして進学や多様な分野への就職を目指す「ダイバーシティコース」のどちらかを選べるようになり、将来の選択肢が広がりました。


SNSにて情報発信
全国募集もスタート
介護福祉士の受験資格を得られるとあって、置戸高校には地元や北見市などの近隣地域をはじめ、帯広市、札幌市、千歳市、登別市ほか、全道各地から生徒が集まってきます。ただ、少子化の影響で2016年ころから入学者の減少が続き、危機感を持った置戸高校は新たな対策を模索。後藤教頭は「2021年からインスタグラムやフェイスブックなど、SNSを活用した情報発信に乗り出し、広報活動にも力を入れるようになりました」と話しています。
「1人1台端末」など、いち早くICT(情報通信技術)環境を整備したことで、オンラインによる学校説明会も複数回開催。町長や教育関係者からなる置戸高等学校支援対策協議会では、動画投稿アプリ「TikTok」で置戸高校の情報を発信しており、中には50万回を超える再生回数を記録した動画もあるそうです。
「そうした取り組みが功を奏し、昨年9月に開催した体験入学会には、例年の2.5倍もの中学生や保護者が訪れました。それによって、大幅に入学者が増えたわけではありませんが、毎年一定の人数をキープし続けるためにも道内外に向けた広報活動は欠かせません」。
2023年度入学者選抜から全国募集も始まりました。成果を得るためにも、今年新たに地元以外の高校に進学したい中学生と全国各地の高校をつなぐウェブサイト「地域みらい留学」(一般社団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム運営)を利用し、オンライン説明会と併せて全国に置戸高校の情報を発信する計画です。

きめ細かな教育体制
国家試験合格率100%
置戸高校の校舎は、置戸町のシンボルともいえる木をふんだんに使ったぬくもりのあるつくり。校内には、理科教室や調理教室といった特別教室のほか、介護実習室や入浴実習室などがあり、最新式の機械浴装置など、現場同様の設備が整っています。全校生徒35名に対し、福祉科の教員は8名。きめ細かな体制のもと、介護の知識と技術を身につけることができます。
「本校では、一般科目とともに福祉科目を学ばなければならないため、勉強は大変です。ただ、同じ目標を持つ仲間が集まると、そこにチームワークが生まれ、互いに助け合いながら成長することができる。それが福祉に特化した本校の長所です」。
介護福祉士国家試験の受験資格を得るために必要な介護実習は、規定より1週間多い12週間に設定。3年生の現場実習では、8週間のうち1週間をそれまでの7週間とは別の介護施設で行い、現場経験を増やすことで実践力を高めています。
「卒業後、即戦力として働くだけでなく、大学や専門学校に進学し、社会福祉士や理学・作業療法士など、ダブルライセンスを取得することも可能です。高校生のうちに介護福祉士の資格を取得できることは、福祉の道を目指す人にとって大きなメリットになるのではないでしょうか」。後藤教頭のそのことばから、置戸高校で学ぶ意義が伝わってきます。
2022年の介護福祉士国家試験の合格率、進路達成率ともに100%。一人ひとりの努力が実を結んでいます。


全校生徒の約8割が利用「博愛寮」
親元を離れ、置戸高校に入学した生徒は「博愛寮」に入寮することになります。現在、全校生徒の8割以上が寮を利用しており、互いに協力し合いながら共同生活を送っています。
「レク係など、寮生はみんな何らかの役割を持って生活しています。集団生活を経験することで人との関わり方など、社会性を養うことができます」と後藤教頭。相手への気遣いや思いやりなど、豊かな心を育むことも教育方針のひとつ。置戸高校では、寮生活も学びの場ととらえ一貫した教育を行っています。
また、置戸町教育委員会から入学時に10万円相当が支給されるほか、通学バス代・寮費の補助など、安心して高校生活を送るための支援制度も充実。町ぐるみで置戸高校をサポートしているのも注目すべき点です。
大学や専門学校と比べ、人数は少ないものの、置戸高校の卒業生は確かなスキルと心構えを身につけた福祉分野の担い手。
実際、道内各地の介護施設で即戦力として活躍している一方、定着率も高く、就職先から高い評価を得ています。

【卒業生】博愛寮の寮長を経験し、人と関わる力を育みました。
子どものころ、曽祖母が入所する施設にお見舞いに行った際、そこで働く介護士さんに憧れ、いつか自分も高齢者と関わる仕事がしたいと思いました。その夢を叶えるために選んだのが、大学や専門学校に行かなくても介護福祉士の資格が取れる置戸高校です。寮の存在も決め手になりました。高校の思い出は、それまでの集大成として行う実技テストに合格したこと。町内の公民館やスポーツセンターに行って、仲間と協力して練習に取り組みました。だれもが一度は落ちる難易度の高いテストだけに、合格したときの喜びはひとしお。涙が止まりませんでした。また、「博愛寮」では寮長を務め、共同生活だけでなく、人をまとめることの難しさを経験し、それが自身の成長につながりました。
卒業後は地元帯広にある特養に就職。大変なことやつらいこともありますが、それよりも楽しいという気持ちの方が上回っています。高校で資格を取って介護の仕事に就いた自分に、職場のみなさんが期待を寄せてくださっていることも大きな励みです。目標は、自分が担当する入居者さんには何が必要なのかを見きわめ、その人に合ったケアを提供すること。そのためにも、喀痰吸引の資格を取りたいと思っています。

【卒業生】仲間と学んだ3 年間。スキルと自信を身につけました。
地元北見市にも普通高校はもちろん、商業高校や工業高校もありますが、置戸高校の存在を知り、通うのに多少時間がかかっても福祉の資格が取れるならと思い、受検しました。ただ、置戸高校では、一般科目と福祉科目の両方を履修しなければならないため、勉強はけっして楽ではありません。グループ単位で取り組む校内実習は、全員が合格しなければ次に進めないなど、チーム力が試される場面もあります。無事に卒業できたのは、家族と担任の先生のサポートのお陰。生徒に寄り添い、ときには一緒に泣いてくれる担任の先生がいたからこそ、大変なことも乗り越えられたと感じています。同じ目標を持つ仲間たちの存在も励みになりました。介護福祉士の国家試験に合格したときは、3年間の努力が報われ、ほっとしたことを覚えています。
卒業後は、置戸町にある特養で介護士として働いていますが、介護は一つとして同じケースはありません。日々、奥の深さを感じながら、経験を積み重ねています。仕事で大切にしていることは、どんなに忙しくてもご利用者様一人ひとりとしっかり向き合うこと。その中で見せてくれるご利用者様の笑顔や「ありがとう」のことばが、仕事への原動力になっています。


北海道置戸高等学校
北海道常呂郡置戸町字置戸256-8
TEL 0157-52-3263 FAX 0157-52-3290
E-mail oketo-z0@hokkaido-c.ed.jp
http://www.oketo.hokkaido-c.ed.jp/

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