福祉の現場から
vol.136
児童養護施設の小規模化

2016年に児童福祉法が改正され、「家庭養育優先の原則」が定められました。
厚生労働省が進める児童養護施設の小規模化は、さまざまな理由により、保護者の養育を受けられない子どもたちをより家庭に近い環境で養育するための方策の一つです。
この春、小規模化を完遂した児童養護施設「札幌南藻園」を訪ね、「小規模グループケア」について園長の栗本信明さんからお話をうかがいました。
施設の小規模化を図り
家庭的な環境を提供
さまざまな事情により、家庭での養育が困難な児童は全国で約4万2,000人。このうち約80%が児童養護施設、約20%が里親家庭で暮らしています。
現在、厚生労働省では、児童養護施設の小規模化(以下、小規模化)を進めていますが、これまでの児童養護施設は全体の70%が大舎制で、中には定員100名を超えるような大規模施設もありました。そうした状況では、個々のニーズに応じたケアが難しく、一方では児童虐待が社会問題化していたこともあり、家庭的養護の推進は急務の課題でもありました。小規模化の目的とは、保護者と一緒に暮らせない子どもたちに、より家庭に近い環境を提供すること。厚生労働省は、その意義について「一般家庭に近い生活体験を持ちやすい」「子どもの生活に目が届きやすく、個別の状況に合わせた対応をとりやすい」「集団生活によるストレスが少なく、子どもの生活が落ち着きやすい」などとしています。

新しい養育の形
小規模グループケア
小規模化の概要は、本体施設の定員を45人以下とし、それ以外は地域小規模児童養護施設等を設置して少人数で生活することを基本としています。本体施設においても、児童6~8人で一つのユニット(生活単位)を構成し、小規模グループケアを推奨。原則1歳から18歳までの要保護児童が生活する児童養護施設は全国に約600ヵ所ありますが、2016年時点で、その約75%が小規模グループケアを実施するに至っています。
また、小規模化の一環として、施設から離れた場所に、養育者の家庭で複数の子どもを養育するファミリーホームを整備するほか、里親支援を行い、施設機能の地域分散化を図っています。
子どもの健やかな成長には、親や養育者との「愛着形成」が欠かせません。子どもたちの愛着形成をサポートするためにも、家庭同様の環境で養育することが求められているのです。

小規模化の成果と課題
社会的養護の拠点へ
2017年3月、全国の児童養護施設と乳児院を対象に実施したアンケート調査をもとに、小規模化による成果と課題が発表されました。それによると、「子どもとの個別的な関わりが増えた」「個室の確保など、子どもの生活環境・プライバシーの向上が図れるようになった」「日常生活上の体験が豊かになった」などが成果として報告されています。「職員と一緒におやつ作りなどができてうれしい」といった子どもの声や、「感情を表出できるようになった」など、子どもの変化についての回答も寄せられています。こうした結果から、家庭的な環境が子どもたちに良い影響をもたらしていることが分かります。
一方、「課題の大きい子どもがいる集団では、他の子どもへの影響が大きくなった」と回答した施設が70%を超えており、子ども同士、子どもと職員との距離が近くなることで生じる課題があることもうかがえます。このほか、「職員の資質・経験の違いによって養育に差が生じやすくなった」など、人材育成や人材確保の問題を課題として挙げる施設も多く見受けられたようです。厚生労働省では、それらの課題を検討・支援し、児童養護施設を地域の社会的養護の拠点とすることを最終的な目標として掲げています。
公益財団法人 鉄道弘済会 児童養護施設 札幌南藻園
2023年4月 小規模化が完了
1953年2月1日、公益財団法人 鉄道弘済会によって設立された児童養護施設「札幌南藻園」は、南に藻岩山を望む景観からその名がつけられました。豊かな自然に囲まれた環境の中、定員15名からスタートし、現在は幼児から高校生まで、全45名が暮らしています(9月1日時点)。
60余年にわたり、集団生活を基本とした大舎制の建物で運営を続けてきた札幌南藻園も、2017年4月、本園の隣に定員6名の分園型小規模グループケア「ひまわり」を開設し、小規模化への一歩を踏み出しました。「当園では建物の老朽化と時代の要請を受けて、札幌南藻園家庭的養護推進計画を策定し、2014年から小規模化への準備を進めてきました」と教えてくれたのは、園長の栗本信明さん。 続いて、2019年4月に地域小規模児童養護施設「たんぽぽ」、2021 年4月に「あじさい」「すずらん」を開設しました。
「今年4月には本園が竣工し、計画の最終章が幕を閉じました。本園では、一軒家のようなユニットを4つ設け、小規模グループケアを行っています。定員6名のユニットで生活するのは、幼児・小学生、中学生か高校生と、縦割りでグループ分けをした子どもたちです。それまで4人1部屋だった生活が1人1部屋となり、子どもたちは自分だけの時間と空間を持てるようになりました」。

家庭的養護を実践し子どもの変化を実感
一軒家仕様の新しい施設には、それぞれリビングダイニングや担当職員が食事の支度をするキッチンがあります。大舎制では目にすることのなかった家事の様子を間近に見ることができ、「〝料理や掃除ってそうやるんだ〞とか、子どもたちにとって日常生活はいろいろなことを知る機会でもあります。自立するために必要なスキルを身につけてもらうことも児童養護施設の役割です」と栗本園長。
朝、キッチンから聞こえるまな板の音に家庭を実感したり、自分専用の食器を持てたことに歓喜する子どもたちを見て、職員も家庭に近い環境で養育することの意義を肌で感じています。
「何より個別的に子どもと対応できるため、一人ひとりのことがよくわかるようになりました。気まずい雰囲気になったとき、逃げ場がないのが課題ですが、それは家庭でもよくあること。職員をより身近に感じられるようになり、子どもたちも自分を表現してくれるようになりました」。
本園も分園もすべて新築。新しくなった施設に学校の友だちを連れてくる子どももいるそうで、「我が家と思ってもらえるとうれしいですね」と話す栗本園長も、小規模化に手ごたえを感じているようです。

地域に開かれた機関
子育て支援も充実
札幌南藻園では、大学などへの進学を希望する子どもに対し、鉄道弘済会の給付型奨学金を利用して月額3万円を支給するほか、5〜10年間にわたってアフターケアを実施しています。
「具体的には、ラインやメールで近況を尋ねたり、会って話を聞くなど、どんな生活をしているか把握できるようにしています」。必要であれば、食料などを仕送りすることもあるそうで、そのサポートは一般家庭と変わりません。
「在園、退園に関係なく、当園に入所した子どもには〝自立支援のためのプログラム要綱〞を適用しているのも独自の取り組みです。その子の将来に関わるような事例については、予算から支出して支援しています」。栗本園長のそうした説明から、札幌南藻園では退園後も子どもたちとのつながりを大切にしていることがうかがえます。
今年4月には、本園に「なんそうえん子ども家庭支援センター」を開設。「この5ヵ月で約450件の相談が寄せられました。いじめや不登校など、その内容はさまざまですが、反響の大きさに驚いています」。
1996年から一時的に子どもを預かるショートステイも実施しており、地域との関わりはより大きく広がっています。
「要保護児童の養育と地域の子育て支援はまさに車の両輪です。これからの児童養護施設には、地域に開かれた機関としての役割が求められてくるのではないでしょうか」。栗本園長は最後にそう結びました。


公益財団法人 鉄道弘済会
児童養護施設 札幌南藻園
札幌市中央区界川1丁目6-14
TEL(011)561-0668 FAX(011)561-0710
●入所定員・・・ 48名
●施設・・・本園(小規模グループケア4棟:いちょう・しらかば・さくら・かえで、児童家庭支援センター) /分園型小規模グループケア1棟/地域小規模児童養護施設3棟
今年70周年を迎えた児童養護施設。
本園には、小規模グループケア4棟のほか、音楽室や心理療法室、一人暮らしを体験できる自立訓練室などがあります。
卒園式などの行事に利用できる地域交流サロンは、町内会の役員会やレクリエーションの会場として地域に開放しています。
在園・退園の子どもたちはもちろん、地域で盛り上がる「南藻園祭り」は同施設を代表するイベントの一つです。

その他の記事を読む
-
Vol.135 2023.Summer
置戸高校の取り組み
道内で唯一の福祉科単置校として福祉教育を実践し、介護福祉士を中心に、福祉分野の担い手を育成している置戸高校。少子化が進む中、SNSやオンライン説明会など、時代の潮流に沿ったツールを活用し、全国の中学生に入学を呼びかけています。その斬新な広報活動から教育方針、介護福祉士国家試験合格実績、寮生活まで、新しい試みにチャレンジし続ける置戸高校を取材しました。 -
Vol.134 2023.Spring
人と社会をつなぐ『手話』
手や指で表現する手話が、日本語と同等の言語だということを知っていますか?
札幌聴覚障害者協会では、手話の普及を目的にさまざまな活動を行い、耳の聞こえない人たちが安心して暮らせる社会の実現を目指しています。
聴覚障害者にとって手話がいかに大切か、言語としての手話の必要性など、「手話」に焦点を当て、理事長の渋谷雄幸さん、事務局長の京野大樹さん、手話通訳士の渋谷悌子さんの3人にお話をうかがいました。