小さなたび
vol.132
彩の秋、ぶどうとワインが香るまち秋のとかち池田町の旅

(左)8,000リットルの大樽とレンガ敷きの通路が建物正面へと続く印象的なワイン城。
(右)収穫間近に迫ったぶどう。
いろいろな種類の羊がいる羊牧場を訪ねる
全国的にも有数の日照時間を誇る十勝地方。文字どおり、その「とかち晴れ」に恵まれた秋の一日、ぶどうとワインのまち池田町を訪ねた。帯広市から東へ20kmの位置にあり、中央に利別川、南西の幕別町との境界に本流の十勝川が悠々と流れている。平坦で自然豊かな地では畜産・農産業が盛んだ。
道東自動車道の池田インターを下りると、池田町郷土資料館が近いので、そこから旅をスタートした。旧高島中学校校舎を利用した資料館で、開拓期から昭和にかけての生活用具や農機具、町内の遺跡から発掘された土器や石器、ふるさと銀河線や旧国鉄の鉄道資料など、大人も子どもも見て学んで楽しめるものとなっている。
道道237号線を南へ向かうと、市街地の東側に泉質が変わる不思議な温泉「清見温泉」や、樹齢300年を超えるカシワの大樹が生い茂る自然豊かな清見ヶ丘公園が、町民や観光客の憩いの場として広がっている。園内には36ホールのパークゴルフ場もあり、無料でプレーができる。
公園から数分でスピナーズファーム・タナカがある。30年前に羊毛生産のため、家族で始めた羊牧場だ。シェットランド、ジャコブ、チェビオットなどいろいろな種類の羊を飼育している。教えてもらったように、柵の前で手のひらをパンパンと打つと、遠くにいた羊がトコトコと寄ってきてくれた。柵越しにエサを与えるとペロペロッと食べてしまう様子が可愛くて微笑ましい。
工房内ではニット帽やソックスなど羊毛製品のほか、雑貨・小物や洗毛・染毛した羊毛、手紡ぎ毛糸も販売している。本州から買いにくるファンもいるそうだ。





大自然に包まれて十勝の食を堪能する
名残惜しいが羊たちにさよならをして、十勝まきばの家へ向かった。広々と見渡す限りの十勝平野、はるか遠くに脈々と連なる山々、牧歌的で雄大な自然を満喫し、コテージでの宿泊ができる。キャンプサイトもあり、ドッグランも人気だ。さらに昨年夏、なんと日本初の「ワイン樽サウナ」も完成した。もちろんあとで訪問するワイン城で使用されたものだ。27年にわたり休むことなく年間約1万本ものワインを熟成し続けた大樽がサウナに生まれ変わったのである。サウナは3棟あり、それぞれ定員は3名となっている。
ちょうど昼どきになったので、森のカフェレストランでランチにした。自家農園のミニトマトを使ったメニューが豊富にある。注文した焼きチーズトマトカレーの熱々で濃厚なチーズとの相性も抜群だ。ドリンクは池田ぶどうサイダー。ワイン醸造用「山幸やまさち」種の果汁を使用した山ぶどうのような風味と爽やかな酸味がすっきりとして、ほのかに甘い。敷地内の自販機でも販売している。お腹を満たした後は、風とひつじの丘展望台まで上ってみた。十勝平野の田園風景が眼下に広がり、日高山脈の山並みも一望できる絶景スポットとなっている。




丘にそびえるワイン城とドリカムのギャラリー
ワイン城は、ヨーロッパ中世の古城に似ていることからそう呼ばれるようになったが、正式名は「池田町ブドウ・ブドウ酒研究所」という。
館内を地下熟成室から見学することにした。ワインが眠る部屋であり、樽熟成、そして既に出荷を終えた年代物のワインの数々も見ることができる。大樽を割いた屋根をしつらえたバーもあり、独特で重厚な空間になっていた。
ブランデー蒸留室は1階にあり、蒸留器と熟成樽をガラス越しに見ることができる。ブランデーはワインを蒸留して造るということも学んだが、その手間や時間は想像以上に大変だということも知った。2階には、ブドウ栽培やワインの製造方法、十勝ワインについての知識を深められる展示やライブラリがある。4階にはレストランがあり、いけだ牛や黒豚など地元ならではの食材をワインとともに味わうことができる。
また、土・日・祝日には専門スタッフが館内を案内する有料のワイナリーツアーを実施しているほか、平日には無料のミニツアーもある。
帰りには試飲コーナー(有料)もある1階のショッピングエリアで、十勝ワインはもちろん池田町の特産品も購入できる。
ワイン城のすぐ近くにブドウ展示園があるので立ち寄ってみた。池田町だけの品種「清舞」「山幸」などの樹が植えられており、収穫も間近だと聞いた。やがて味わい豊かな十勝ワインに生まれ変わるに違いない。
ワイン城から歩いてすぐのところにDCTgarden IKEDAがある。池田町は、DREAMS COME TRUEドリームズ カム トゥルーのボーカル吉田美和さんの故郷。館内では、コンサートでのたくさんのステージ衣装をはじめ、写真や受賞したトロフィーなど、ドリカムの数々のアナログなアーカイブを展示していた。北海道での原風景が隠れている歌詞を美和さんが解説付きで紹介するファイリングリストも閲覧できる。ここでしか購入できないオリジナルグッズも販売している。入場は無料だ。







池田町いきがい事業と十勝川のサケの遡上
町内から産出される粘土を利用し、湯のみや皿、花瓶などの作品を展示販売している池田町いきがいセンターに行ってみた。1972年に町役場に「いきがい課」が新設され事業が始まったという。60歳以上の方が作陶しており、ひとつひとつ心を込めた作品は、味わい深い素朴な器が多い。この9月に50周年を迎えたことを記念して、センターで半額セールを行なったところ大盛況だったそうだ。そのためか訪れたこの日に陳列されていた商品はやや少なめだったが、奥のスペースでは数人の通所者が黙々と作品を作られていた。
JR池田駅から徒歩15分ほどで、利別川左岸に十勝川資料館がある。正式名称は「十勝川下流防災施設」なので、河川やダムに関する模型や資料が展示されている。圧巻はジオラマだ。この地で重要な役割を担う一級河川がもたらす自然や役割がよく分かる。洪水の際の危険さについても詳しく学べるので、子どもだけではなく大人も興味深く見入ってしまう。
旅の最後に向かったのは、千代田えん堤だ。1935年に十勝川をせき止め、千代田の水田かんがい施設として造られたもので、その規模は北海道随一とか。現在は採卵用のサケ用の捕獲場としても重要な役割をはたしている。9月から10月頃は、産卵のために回帰するサケが遡上する圧巻の光景が見られるので、秋の風物詩ともなっている。この日も無数のサケが川面をはねていた。




池田町の旅マップ

