福祉の現場から
vol.132
地域で支える認知症介護


認知症の人の介護体験記録集
(北海道認知症の人を支える
家族の会 2021)
5人に1人が認知症という時代がすぐそこまで迫っています。
一人で背負うのではなく、地域で支え合うのがこれからの介護のあり方。
誤解と偏見をなくすためにも、認知症への知識と理解を深め、不安や悩みは身近なサポート機関に相談しましょう。
35年にわたり、認知症介護を担う家族への支援活動を行う「北海道認知症の人を支える家族の会」を取材しました。
進む高齢化増える認知症患者
日本は世界でも有数の長寿国として知られていますが、それに伴い認知症の患者数も増加しています。厚生労働省によると、2020年現在で65歳以上の認知症患者数は約600万人。これが2025年になると、700万人を超え、高齢者の5人に1人が認知症を発症すると見込まれています。
2000年に介護保険法が制定されたのを機に、認知症の人とその家族を取り巻く環境は改善の方向へと進んでいますが、認知症への誤解や偏見は未だ根強く残っているようです。家族が認知症を患っても「恥ずかしい」「認めたくない」という気持ちから周りに隠してしまい、その結果、相談機関や病院へ行くのが遅れ、症状が進行してしまうケースも少なくありません。
どう見分ける?認知症ともの忘れ
早期発見および早期対応につなげるためにも、まずは認知症とはどんな病気か知っておくことが大切です。認知症の代表的な症状といえば「もの忘れ」ですが、これは高齢になればだれにでも起こり得るもの。ただ、加齢によるものか、認知症によるものか、区別するのは容易ではありません。そのため、いくつかサインとなるポイントを押さえておくと役に立ちます。
●日常生活に支障をきたす
人の名前や食事のメニューを思い出せないのは加齢によるもの。一方、食事をしたこと自体を忘れたり、大事な約束を忘れるなど、日常生活に支障をきたすような場合は認知症のサインと考えてもいいでしょう。
●もの忘れの自覚がない
もの忘れの自覚があれば加齢によるものですが、もの忘れをしていることに気づけなくなれば、認知症かもしれません。
●覚えることが難しい
もの忘れをしても新しいことを覚えられるのなら問題ありません。覚えられないようであれば、それは認知症のサインです。
三大認知症と軽度認知障害(MCI)
認知症といっても、発症する原因や症状は人によって違います。その種類は全体の90%以上を占める「三大認知症」に加え、認知症の前段階といわれる軽度認知障害(MCI)があります。
●アルツハイマー型
認知症の中で最も多いのがこの型。脳にたまった異常なたんぱく質により神経細胞が破壊され、脳に委縮が起こります。軽度のもの忘れから始まり、ゆっくりと進行し、やがて時間や場所の感覚を失っていきます。
●血管性認知症
脳梗塞や脳出血によって脳細胞に十分な血液が送られなくなり、脳細胞が死ぬことで発症します。障害を受けた部位により症状が異なるため、一部の認知機能は保たれている「まだら認知症」が特徴で、高血圧や糖尿病が主な要因といわれています。
●レビー小体型認知症
レビー小体という特殊なたんぱく質により脳の神経細胞が破壊され、見えないものが見える幻視や手足が震えたり、転びやすくなるなどの症状が現れます。
●軽度認知障害(MCI)
もの忘れはあるものの、日常生活には支障がない状態のこと。MCIに数えられる人は400万人(2012年時点)と推定され、このうち約半数が5年以内に認知症へ移行するといわれています。
現代の医学では、認知症を完治させることはできません。中には薬で進行を遅らせることができるケースもありますが、大切なのは認知症という病気を受け止め、本人、家族ともに前向きにケアに取り組むこと。そのためにも、さらなる社会的サポートの充実が求められます。
「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」の違い(一例)
加齢によるもの忘れ | 認知症によるもの忘れ | |
---|---|---|
体験したこと | 一部を忘れる (例:朝ごはんのメニュー) |
すべてを忘れる (例:朝ごはんを食べたこと自体) |
学習能力 | 維持されている | 新しいことを覚えられない |
もの忘れの自覚 | ある | なくなる |
探し物に対して | 自分で見つけられる | いつも探し物をしている
誰かが盗ったなどと、 |
日常生活への支障 | ない | ある |
症状の進行 | 徐々にしか進行しない | 進行する |
北海道認知症の人を支える家族の会−支え合って35年 介護経験者により創設
「北海道認知症の人を支える家族の会」(以下、道家族の会)は、認知症の人を介護する家族が互いに支え合うことを目的に、1987年に創設されました。
「創設から35年を経て、当初は介護する側だった50代、60代の会員が介護される側になり、現在はその子どもたちが介護する側になりました」。
そう話してくれたのは、副会長の坂本征子さん。地方支部の立ち上げに関わったという坂本さんも、認知症介護の経験者。現在、道家族の会では坂本さんを含む7名の会員が、ボランティアで相談業務をはじめ、各種活動に取り組んでいます。

電話相談は初めの一歩 ここから次の段階へ
活動の柱となっている相談業務は、道の委託を受け、2010年より「北海道認知症コールセンター」として、道内全域からの電話相談に応じています。相談件数は増加傾向にあり、ここ数年、年間約800~900件の相談が寄せられています。
「初めて電話をかけてこられる方は、どこに相談していいかわからないという方がほとんど。コールセンターは認知症介護に直面し、戸惑っている方が次の一歩を踏み出すための窓口。地域包括支援センターや介護施設のケアマネジャーへ橋渡しができれば、相談者だけでなく、わたしたちにとっても大きな前進となります」。今度は、事務局長の西村敏子さんが答えてくれました。
ただ、家族が認知症にかかったことを他人に知られることに強い抵抗感を持ち、名前はもちろん、住んでいる地域すら明かさない相談者も少なくありません。そうした人たちが、地域包括支援センターなどの福祉サービスを受け入れるには、納得するまでの時間が必要です。
「病院など医療機関を紹介してほしいという相談もありますが、大半は認知症を患う家族がいることに対する悩み。どんなに時間がかかっても、しっかりと相談者の話を聞くようにしています。中には2度、3度とかけてこられる方もいて、その場合は次に誰が電話を受けても状況がわかるよう、うかがった話をファイルに残しています」と、坂本副会長。
相談内容は、症状が進行することへの不安や認知症の人への対応方法などが中心ですが、情報提供やアドバイスをすることだけが相談業務ではありません。相談者の胸のうちを聞き出すことも大切なこと。実際に認知症介護を経験したからこそ、相談者一人ひとりの思いや痛みを受け止め、共有できるのが道家族会の強みです。

年末年始を除く
10:00〜15:00
変わる介護環境 変わらぬ支援の形
相談業務とともに活動の原点となっているのが、毎月2回にわたって実施している「つどいの会」です。参加者は、それぞれの介護経験を語り合いながら交流を深め、日頃のストレスを解消しています。ケアマネジャーなどの専門職から話を聞けるのも、毎回、多くの人が集まる理由です。
「つどいの会を通して、〝大変なのは自分だけじゃない〟そう思い、救われた介護者も多いはず」と、坂本副会長。
そう話してくれたのは、副会長の坂本征子さん。地方支部の立ち上げに関わったという坂本さんも、認知症介護の経験者。現在、道家族の会では坂本さんを含む7名の会員が、ボランティアで相談業務をはじめ、各種活動に取り組んでいます。
少子化、核家族化により介護をする側の状況も変化し、昨今は一家の嫁ではなく、息子や配偶者が一人で介護を背負うケースもめずらしくありません。孤立する介護者をサポートするためには、地域で支え合う体制づくりが不可欠です。
道家族の会では、毎年6市町村をまわり、「認知症の人と共に暮らすまちづくり研修会」を実施しています。認知症を正しく理解し、介護のノウハウを学ぶ機会として、高齢者をはじめ、高校生など10代も参加。「認知症サポーター養成講座」を兼ねているため、受講すればだれでも認知症サポーターになることができます。地域に暮らす認知症の人やその家族に対し、できる範囲で手助けをするのが、認知症サポーターの役目。認知症への理解を深めることは、人との接し方や自分の行動を見つめ直すことにもつながり、自身の仕事や人間関係にもプラスになるはず。同研修は2005年の開始時から昨年度まで96市町村で行われ、約8100人の認知症サポーターが誕生しています。
「専門職がそろった地域包括支援センターができ、認知症の人を取り巻く環境も大きく変わりましたが、介護者たちの戸惑いや悩みは今も変わることはありません。わたしたちもこれまでと同じように、新しく介護者になられる方々に寄り添いながら、必要なサポートを続けていきます」。西村事務局長は最後にそう結びました。

町づくり研修会

一般社団法人 北海道認知症の人を支える家族の会
札幌市中央区北2条西7丁目 かでる2・7 4階
TEL・FAX 011-204-6006
1987年6月28日に設立。認知症の人とその家族を支援し、福祉の向上を目指して活動を続ける団体です。現在、43支部、1674名の会員(2022年3月現在)を擁し、さまざまな取り組みを行っています。活動内容は、相談業務、集いの会、研修会のほか、会報(年2回)や介護体験記録集(年1回)の発行も。入会金は、一般会員600円(年会費)、賛助会員個人一口5000円(年会費)・団体一口1万円(年会費)。なお、一般会員は支部単位での入会となります。

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Vol.133 2023.Winter
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Vol.131 2022. Summer
福祉の課題にアプローチする取り組み福祉サービスの「すき間支援」
今年3月30日、「札幌市手をつなぐ育成会」が福祉制度・サービスの「すき間支援」に関する調査・報告書『Sustainable Welfare Idea Book』を発行しました。
新たな事業やサービスを生み出すためのツールとして作成したこの調査・報告書について、発行の目的やその内容などを取材しました。