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福祉の現場から

vol.131

福祉の課題にアプローチする取り組み福祉サービスの「すき間支援」

今年3月30日、「札幌市手をつなぐ育成会」が福祉制度・サービスの「すき間支援」に関する調査・報告書『Sustainable Welfare Idea Book』を発行しました。
新たな事業やサービスを生み出すためのツールとして作成したこの調査・報告書について、発行の目的やその内容などを取材しました。

「親亡き後問題」に向けてアンケート調査を実施

今年3月30日、「札幌市手をつなぐ育成会」は、札幌市社会福祉協議会の助成を受け、福祉制度やサービスの「すき間支援」に関する調査・研究報告書を発行しました。その名も『Sustainable Welfare Idea Book』。同報告書は、障がいのある子どもの「親亡き後問題」に対し、ソーシャルアクションを喚起することを目的に、アンケート調査およびシンポジウムなどを実施して作成されたものです。
「札幌市手をつなぐ育成会」は、知的障がいのある子どもを持つ親の会で、アンケート調査は会員約1100名を対象に行われました。調査期間は2020年11月1日~12月18日、回収数は382件。半年をかけてまとめ上げた報告書は、だれもが住みよい社会となるための事業活動に役立ててもらおうと、官公庁や地方自治体、福祉関係のほか、SDZs(持続可能な社会)などへの関心が高い大学や民間企業まで、約50に及ぶ機関・団体に送付されました。

ダンスワークショップなども主催

解決すべきはサービスの「すき間」

アンケート調査は、年齢や性別、就学・就労など、障がいのあるお子さんの基本情報と、希望する「すき間支援」について意見を求めた内容となっています。集計結果を見ると、希望する「すき間支援」は、「お金に関するサポート」が49.1%と最も多く、続く「移動や交通に関するサポート」も44.7%と、高い数値を示しています。この結果を受け、感じたこと、見えてきたことなどについて、「札幌市手をつなぐ育成会」の長江睦子会長と、深宮しのぶ常務理事にお話を伺いました。
「札幌市手をつなぐ育成会の会員は、保護者と同居している人が全体の7割を占めています。とくに高齢の親御さんの場合は、免許を返納した後、グループホームへの送迎や移動をどうすればいいか不安に思う人は少なくありません」と深宮常務理事。
現時点で有償の移動サービスはあるそうですが、利用対象は施設などの事業所に限られ、個人で利用することはできません。「保護者の多くは、多少お金がかかっても利用できるサービスがあれば利用したいと思っています。移動サポートなど、ニーズに応える『すき間サービス』を、民間企業などに立ち上げていただくことがこの報告書のねらいです」。長江会長は期待を込めてそう話します。
このほか、「お金の管理や施設入所の書類手続きなどをサポートしてほしい」「24時間支援者が付いている住宅があればいい」「高校卒業後はデイサービスが利用できないため、空いた時間に活動できる場所が欲しい」「余暇活動・運動・買い物などの見守りをしてほしい」など、求めるサービスは多岐にわたっています。
ただ、そうした要望の前に立ちはだかるのが人材不足という大きな壁です。障がい者の移動をサポートするガイドヘルパーが普及しないのは、「障がいのある人への理解が足りないことも原因のひとつ」と長江会長は分析します。続いて、「障がいのある人への理解啓発活動が全国的な広がりを見せている中、当育成会でも、札幌市の協力のもと、企業を訪問したり、講座を開講して、障がい者を知っていただくための活動に取り組んでいます」と教えてくれました。

『Sustainable Welfare Idea Book』より

福祉の充実に欠かせない意見交換と情報収集

同育成会では、アンケート調査を実施した後、各団体の有識者を招いて、オンラインシンポジウムを実施しました。参加者は、北海道手をつなぐ育成会会長、北海道自閉症協会札幌分会ポプラ会会長、ことばを育てる親の会北海道協議会理事、北海道札幌伏見支援学校前PTA会長、北海道きょうだいの会代表ほか。シンポジウムでは、行政サービスの拡充を中心に「すき間」の埋め方や、「すき間」を埋めるためのツールなどについて議論が行われました。議論が進むにつれ、具体的なアイデアが数多く出されましたが、その一方で潜在的な問題点も浮き彫りになったといいます。
「親が子どもに関わるのは半生ですが、兄弟姉妹は一生関わることになります。きょうだいの会の方から〝保護者と違って気軽に相談できるところがない〟といった話を聞き、ご本人や親御さんだけでなく、兄弟姉妹へのサポートも大事だと実感しました」と深宮常務理事。
> シンポジウムなどを通して、多くの人の意見を聞くことは課題解決につながる有効な方法のひとつですが、それ以前に重要なのは情報収集です。アンケートを見ると、希望するサービスはすでにあるのに、それを知らないケースも多く、情報が行き届いていないことがわかります。
「昔と比べ、福祉サービスが充実していることもあってか、障がい者相談室を利用していない方が多いように感じました。密に相談していれば、助けになってくれることも多いはず。放課後デイサービスなどの施設が少なかったころは、相談室だけでなく、先輩の保護者の方に聞いたりと、とにかく必死になって情報を集めていました」と深宮常務理事は振り返ります。
札幌市が発行している『札幌市福祉ガイド』は、相談、福祉、生活、交通など、障がいのある人や保護者にとって必要な情報が網羅されたガイドブックです。
「多くの人がこのガイドブックの存在を知りません。たとえば、養育手帳を持っている世帯には毎年届くなど、情報を必要としている人の手に渡れば、有効に活用できるのではないでしょうか」と深宮常務理事は話します。
ただ待っているだけでは欲しい情報を手にすることはできません。受け身ではなく、情報を得る努力も必要です。同育成会でも、毎年札幌市と意見交換の機会を設け、情報収集とあわせて要望などを伝えています。

オンラインシンポジウムの様子
「せんきょを学ぶ会」には多くの会員が参加

生きやすい社会をつくるすき間支援のアイデア

同報告書の発行から2ヵ月。レスポンスはまだそれほど多くありませんが、福祉関係者や個人から何件か問合せがあったそうです。児童発達支援事業の立ち上げを考えている元教師の方は、「感銘を受けました」と、事務所を訪れました。
「この報告書をヒントに、民間企業ならではの事業が世に出ることを願っています。また、福祉事業者同士が連携すれば、『すき間』をカバーする新たなサービスも生み出されるかもしれません」。そう話す深宮常務理事は、長江会長とともに今後の展開に期待を膨らませています。
深宮常務理事が話していたように、1990年代以降、制度に基づくさまざまなサービスが提供されるようになりました。2018年度の社会福祉法改正により、すべての社会福祉法人に社会貢献が義務付けられたこともあり、高齢者への見守りサービスや除雪ボランティアなど、「すき間支援」に乗り出す事業所も増えています。一方、「責任の所在の問題」「運営費と人材確保の問題」などの課題もあり、二の足を踏む事業所が多いのも事実です。当事者・保護者についても「どこに相談していいかわからない」「情報を拾えない」といった声が聞かれます。一つひとつ課題を解決していくためには、事業所と当事者・保護者の信頼関係を深めることが重要。そこから新しい取り組みへとつながる一歩が始まります。
ヤングケアラーや老々介護、児童養護施設退所後の問題など、高齢者・児童福祉の分野でも既存の制度やサービスでは対応できない「すき間」で深刻な事態が生じ、それが社会問題へと発展しています。それらの「すき間」を埋めるために創出されるアイデアは、だれもが生きやすくなるためのアイデアであり、突き詰めればこれからの未来を創るユニバーサルデザインやSDZsのアイデアともなります。同育成会が放った「アイデアの種」がどう実を結ぶか、世の中の動きから目が離せません。

一般社団法人 札幌市 手をつなぐ育成会

札幌市北区北8条西6丁目2-15
育成会活動センター「いんくる」2階
TEL(011)738-2221 FAX(011)738-2228

「知的障がいのある人とその家族の幸せ」を願い、1959年8月9日に設立。以来、だれもがともに生きることのできる社会の実現に向け、さまざまな活動に取り組んでいます。現在、会員数は約1200名。札幌市にある福祉関係団体の中では、最大級の規模を誇るひとつです。同育成会では、障がい者本人のためのサークルをはじめ、保護者向けの勉強会やサロンなどを行っているほか、障がい者事業所の製品を展示・販売するアンテナショップや雇用型作業所なども運営しています。

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