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福祉の現場から

vol.130

地域に根ざした乳幼児総合支援センター乳児院の取り組み

子どもをあずかり、養育するという点では保育園と同じですが、乳児院は24時間365日体制で社会的養護が必要な乳幼児をケアするための施設です。近年は子育てに悩む保護者への支援など、地域に根ざした乳幼児総合支援センターとして時代に応じた役割を果たしています。そうした背景を踏まえ、札幌乳児院の大場信一理事長、阿部康子院長、吉見香養育課長から乳児院の取り組みについてお話をうかがいました。

乳児院とは

乳児院は、1947年に児童福祉法が制定されたことにより設置された児童福祉施設です。何らかの事情で家庭における養育が困難になった乳児を24時間365日体制でケアすることを目的としており、対象年齢は1歳未満が原則。しかし、必要に応じて小学校就学前までの子どもの養育も行っています。戦後ということもあり、当初は戦争孤児をはじめ、栄養不良や不衛生な環境下に置かれた子どもを保護するための受け皿でしたが、現在は地域の子育て支援に関わる乳児院も増え、時代とともに役割も多様化しています。
厚生労働省の資料によると、2021年3月末時点で乳児院は全国に145ヵ所あり、定員は3,858人(北海道は2ヵ所、定員60名)。少子化にもかかわらず、2009年からの10年間で乳児院は1.2倍まで増加しており、虐待や育児放棄といった理由で入所する子どもが急増するなど、社会背景が反映された結果となっています。
2011年に厚生労働省が打ち出した「社会的養護の課題と将来像」に基づき、最近はより家庭に近い環境での養育を推進するため、4~6人を1グループとした「養育単位の小規模化」が進んでいます。

健やかな発育を促す訓練も実施
季節の行事で子どもたちの成長を祝う

乳児院の役割

●乳幼児の保護と養育
乳児院の最大の役割は、乳幼児を保護し、安全な環境で養育することです。児童相談所から委託を受け、緊急時に子どもの安全を確保する一時保護機能も備えています。また、被虐待児、病・虚弱児、障がい児など、特別なケアが必要な子どもに対し、医療機関と連携した専門的養育を行うのも重要な役目といえるでしょう。保育士だけでなく、医師や看護師、虐待などによって心に傷を負った子どもと1対1で対応する個別対応職員ほか、専門のスキルを身につけた職員の配置が義務づけられているのも、子どもたちの健康や体調を管理するのが目的です。
退所後、一定数の乳幼児は保護者の元へと帰っていきますが、その際も保護者への支援や適切な親子関係を維持するためのアフターケアを行い、子どもたちの健全な成長をサポートします。
●里親への橋渡し
2016年に児童福祉法が一部改正され、2024年度までに就学前の子どもの里親委託率を75%まで引き上げることが目標として定められました。これを受けて、乳児院では里親支援専門相談員を配置し、里親委託や里親支援などに力を入れています。子どもと里親との関係性を構築するためには十分な配慮が必要です。そのため、里親支援専門相談員がパイプ役となり、子どもが安心して里親の元で暮らせるようサポートするほか、退所後もアフターフォローの形で支援を継続します。
●地域の子育て支援
地域や施設によって内容は異なりますが、時代に合った育児サービスを提供することも乳児院が担う大きな役割です。各市区町村と連携し、一時的に利用するショートステイ(子育て短期支援事業)はもちろん、デイサービスや育児相談、子育てサロンなどを実施しているところもあります。また、国や自治体の補助を受け、子育てに関する各種支援を行う「地域子育て支援センター」の機能を持つ乳児院も少なくありません。
今後も社会情勢や価値観の変化などに応じて、さまざまな役割を果たしていきます。

北海道の乳児院
札幌乳児院 札幌市白石区川北2254-1
TEL(011)879-6262
さゆり園 函館市元町15-13
TEL(0138)22-8558
乳児院の概要
入所理由 虐待、家族の精神疾患、経済的困難、離別別居、母未婚、家族の疾病など。
入所期間 長期入所のほか、一時保護やショートスティといった短期入所の受け入れも行っています。
申し込み窓口 乳児院、児童相談所、市町村の子育て相談窓口など。
費用 主に公費でまかなわれますが、保護者の前年度の所得や世帯の状況に応じて、保護者が一部を負担する場合もあります。
職員 嘱託医師、看護師、保育士・児童指導員、個別対応職員、家庭支援専門相談員、栄養士、事務員、調理員、心理療法担当職員、里親支援専門相談員。
退所後の行き先 家庭、里親、養子縁組、児童養護施設など他の施設。

社会福祉法人 北翔会 札幌乳児院 開設の決め手は医療福祉のノウハウ

2009年3月1日、北海道立中央乳児院より民間移譲を受け、札幌乳児院が開設されました。同施設を運営する社会福祉法人北翔会は、1973年から重度心身障がい児の受け入れを行っている「医療福祉センター札幌あゆみの園」を有しています。大場信一理事長は、「乳児院には障がいのあるお子さんも入所してきます。そうした子どもたちに対応できるノウハウを持ち、経験豊富な医療スタッフを多数擁していた点が評価され、移譲が決まりました」と開設までの経緯を話してくれました。
札幌乳児院の定員は40名。入所年齢は満2歳までとなっていますが、退所先が決まらないなどの理由でそれ以降の養育を行うケースもあります。2021年9月に一時保護専用施設を開設したことで、新たに6名の受け入れが可能となりました。
「現在、一時保護を含め41名のお子さんが生活しています。入所理由は虐待、保護者の受刑や精神疾患などさまざまですが、転職や生活を立て直すためにお子さんを預ける保護者も少なくありません。ここ数年は虐待による入所が増加していることを実感しています」。そう教えてくれたのは吉見香養育課長。
コロナ禍の影響もあってか、最近は特に産後うつで子どもを預ける保護者が増えているといいます。

子どもたちが伸び伸びと過ごせる広場

小規模グループを形成し 手厚いケアを実践

吉見養育課長が感じているように、ここ数年、子どもの虐待が深刻化しています。心に傷を負った子どもたちヘの手厚いケアが求められる中、札幌乳児院では2017年に養育単位を5グループから6グループに増やし、小規模グループケアの充実を図りました。現在は子ども1.3人に対し、職員1人を配置し、養育を行っています。職員は保育士をはじめ、嘱託医師、看護師、個別対応職員、心理療法担当職員、家庭支援専門相談員、里親支援専門相談員、栄養士など全67名。2020年には新たに育児指導担当職員を配置しています。
「ネグレクトなどによる被虐待児には、笑わない、目を合わせないといった特徴が見受けられます。当院では子ども4~6名のユニットを組み、チームで養育しているため、問題を抱えた子どもに対しては、しっかり話し合って対応しています」と吉見養育課長。被虐待児だけでなく、早産や栄養不良によって発育基準を下回る子どももいるため、阿部康子院長は、「身体面や健康面の管理も乳児院の大切な役目です」と話しています。
0~2歳は心も身体も成長著しい時期です。それだけに、歩き、ことばを発し、自分の意見を言えるようになるまで成長した子どもの姿を見ることが、そこに携わるスタッフの喜び。「だからこそ、担当の子どもが家庭に戻ったり、里親や次の施設へ移る際は、涙、涙の別れとなります。それは一人ひとりの職員が担当の子どもに対し、愛情をもって接していることの証しです」と阿部院長。

定期的な検診で健康状態をチェック

バックアップ体制を築き退所後も「育ちをつなぐ」

子どもにとって一番の幸せは家族と一緒に暮らすことです。札幌乳児院では、地域に暮らす子どもとその家族へのサポートも視野に入れ、2013年に児童家庭支援センターを開設しました。同センターでは、乳児院で養育した子どもが家族の元へ帰った後の継続的フォローとともに、0~18歳までの子どもとその家族に関する相談を受け、地域の子育てに貢献しています。
「乳児院への入所を必要とする子どもや家族に対するフォローだけでなく、虐待や育児放棄などを事前に予防することが大切です。その意味で、児童家庭支援センターの役割は今後ますます重要になってくると考えています」。そう語るのは大場理事長。近年の里親委託率引き上げの動きについては、次のように話しています。
「里親として手を挙げる家庭が増え、委託率が上昇しても、逆に里親から乳児院へ戻ってくるケースがあるのも事実です。つまり、里親は量と質の両方を確保しなければ、成果に結びつけることができません」。
札幌乳児院では札幌市から委託を受け、2021年度から札幌市乳幼児フォスタリング(里親養育包括支援)事業を開始しました。里親の広報やリクルート活動、里親・里子および養親・養子の養育支援などを行い、里親と養子縁組による受け入れ体制の充実を図っています。
「子どもを家庭に戻すのであれ、里親や他の施設へ移すのであれ、受け入れ側へのバックアップ体制を整備し、育ちをつないでいくことが乳児院の新たな課題だと思っています」。
大場理事長は子どもたちの将来を見据え、最後にそう話してくれました。

社会福祉法人 北翔会 札幌乳児院

札幌市白石区川北2254-1
TEL(011)879-6262 FAX(011)879-6263

・入所定員/40名 一時保護専用/6名
・事業内容/子どもショートステイ、児童家庭支援センター、乳幼児フォスタリング事業
・系列施設/医療福祉センター札幌あゆみの園、札幌すぎな園

【vol.130閲覧中】

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