福祉の現場から
vol.126
現役を引退した方と子どもたちがおもてなしひとあじちがう料理店
社会福祉法人 東川町社会福祉協議会
東京ではじまった「注文をまちがえる料理店」の活動に注目した
東川町社協の福祉活動専門員・遠藤久子さんは、前例を踏襲するだけでなく
東川町独自の取り組みを盛り込んだ活動を開始しました。
なかでも、子どもを巻き込んだ活動は効果を発揮したようです。
活動を〝まちづくり〟にまで広げた東川町社協の取り組みを取材しました。
高齢者支援を〝まちづくり〟にも
「注文をまちがえても、笑って許して」。認知症の方を店員とした大らかで温かい料理店が東京で開かれました。『注文をまちがえる料理店』です。これに興味を持った東川町社協ボランティアセンターの遠藤久子福祉活動専門員は、「東川町でもやってみたい、料理店だけでなく、まちづくりにも活かしたい」と思い、『ひとあじちがう料理店』開催に向けて動き始めました。どんな点が〝ひとあじちがう〟のでしょうか。
一つは認知症に特化せず、要介護認定を受けている人に範囲を広げたこと。
「認知症に対してネガティブな偏見を持たれてしまうと、その方が地域で生きづらくなってしまうかもしれない。認知症があっても障がいがあっても、ずっと働いていける、生きがいを持って暮らしていけるということを東川町の人たちに知ってほしいという思いがありました」。
もう一つは、就学前の子どもたちをサポーターとして採用したこと。
「『間違っても大丈夫』って言っても、間違ってしまったら、やっぱり傷つくんですよね。子どもたちと一緒にやることで、子どもたちが間違ったのか、ホールスタッフが間違ったのか、どっちか判らないあやふやな感じにしたかったんです。最初は就学前の子どもたちでしたけど、2回目からは、1回目に参加してくれた子が小学生に上がっても就学前の子どもたちと一緒に参加してもらっています」。
広報チラシでは、「要介護認定と限定しないで、現役を引退してしばらくたった方と子どもたちが一緒に働くので、ちょっと間違えてもゴメンね」という風にしました。


子どもを巻き込んで地域活動に
子どもたちが参加することに保護者の方や地域の人から抵抗や反対の声はなかったのでしょうか。
「まず、子どもたちにお願いする前に保護者の方に企画内容や意図を詳しく説明します。保護者の方が子どもにやらせたいと思った時点で、子どもたちに意向を聞きました。興味を持たない子がいたら、それはそれでいいんですけど、興味を持ってくれた子がいたら、練習したり『認知症サポーター養成講座』を受けていただいています。ぜひ、やらせたいとおっしゃる保護者の方が多かったですね」。
子どもたちは養成講座で病気の特徴を学び、高齢者との接し方の練習も行いました。養成講座は、一つのきっかけにすぎません。困っているお年寄りがいたら、気軽に声をかけられるような子を今後も育てていきたい、と遠藤さんは思っています。
「東川町は挨拶をする子が多いんですけど、挨拶だけじゃなくて一歩踏み込んだ行動をとれる子に育ってもらえたらいいなという思いはあります」。
保護者からは、「近所のお年寄りにも気軽に声をかけるようになった」という声もありました。
企画を立ち上げるにあたっての一番の問題は財源でした。社協の財源のみでは何もできません。そこで役場に相談することにしました。
「町と話し合いを重ね、結果的に国の補助金を活用することになり、そこから動き始めました」。


お客さんとスタッフの会話がはずむ
次は会場となる料理店探しです。
「私の長男の友だちのお父さんがやっている『東川楽座 笹一』という地元で親しまれている和食店にお願いに行きました。そこの子もキッズサポーターに引き込みたいという思いもあったので、『注文をまちがえる料理店』の動画を見せて、これをやりたいんですと言ったら、いいね、協力するよと言ってくださいました。人のつながりというのは大きいなと思いました」。材料費のみで協力していただけることになり、笹一さんにはお子さんからおじいちゃんまで、4世代で協力していただいています。
最初は笹一さんで開催し、その後『いっぷく茶屋 風和』さんも協力してくれることになりました。風和さんはイラストを描いてくれている村田遼太郎さんのご実家です。
最初は4時間で90食用意したのですが、少し忙しすぎました。高齢者も子どもたちも疲れてしまいました。2回目からは笹一さんでは56食、風和さんでは36食にしました。お客さんは、注文を間違えられたり、テーブルが違っていたりすることもうれしいことのようです。「そこはなくしたくない」と遠藤さんは言います。
「お客さんからのアンケートの中に、スタッフと話したいというのが多くありました。デザートの後もゆったりする方が多いんです。予約時間も取っているんですけど、テーブルが回らないこともあったんですよ」。
そこで、少しでも会話がはずめばいいなと思って、スタッフの略歴と子どもたちの好きなもの、高齢者たちの出身地や「私は大恋愛をして東川町に来ました」など、ちょっとした情報を書いたカードを置くようにしました。お客さんとの会話も増えてよかったと言います。
ご家族からのアンケートでは「いつも怒ってばかりいるAさんが料理店ではこんな笑顔になるんだな」とか、「奥さんへの対応も変わって、今でもラブラブな二人の姿があります」「自分より大変そうな人がいるのに、地域で暮らしているんだなということが分かって良かった」という声が寄せられています。
「偏見を持っている方の意識をコロっと変えるほどの活動ではないと思いますが、少しずつですけど変わってきているかなと思います」。
子どもたちへのアンケートでは「楽しかった」という答えが多くありました。何が楽しかったのでしょうか。「仕事をしてみたかった」「高齢者の方に優しくするのが楽しかった」という答えがありました。高齢者の手助けになっていることがうれしかったようです。

料理店からの新たな展開
料理店の活動は『ひとあじちがうカフェ』『ひとあじちがう洗車場』へと発展しています。コンセプトは料理店と同様です。「男性ならば大半が経験したことのある洗車を思い立った」ということのようです。現役時代はタクシードライバー、バスの運転手、農業、建築業などに従事した経験を活かせる方に協力をお願いしました。第1回目はグループホームの駐車場を借りて実施しました。洗車が終わるまでの待機場所を事業所内に設置、グループホームの入居者と子どもたちがお茶とお菓子を提供するシステムです。グループホームの利用者さんも働きたくなって、スタッフと一緒に洗車をはじめるというハプニングも起こりました。
今後は『ひとあじちがうハンドメイド(趣味や特技を生かした手工芸品をホームページで紹介)』や『ひとあじちがうお助け隊(草取りやリサイクルショップのレンジ、冷蔵庫の掃除など)』などに活動を広げたいと思っています。
現在は料理店の活動もカフェも洗車場の喫茶サービスもコロナ禍で中断していますが、洗車場は定期的に行われています。一日も早くコロナが収束して本来の活動に戻れることを切望しています。
今年中に1回は料理店を開きたいというのが今の願いです。料理店は協力店を増やして月1回開催したい意向を持っています。
最後に『ひとあじちがう料理店』の動画を見せていただきました。その中で、子どもの声のナレーションで「何があっても『まっいいか』というあなたの大らかな気持ちが東川町中に広がることを願っています」とありました。

社会福祉法人 東川町社会福祉協議会
上川郡東川町東町1丁目7-14 電話0166(82)7505 FAX0166(82)7301

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