福祉の現場から

コロナ時代をどう生きていくか 前編

福祉の現場では感染予防対応で大変なご苦労をされていると思います。
また、家庭においてもその影響が出ているケースがあるのではないでしょうか。
そこで今回は、長年、本共済会が主催する「メンタルヘルス講習会」の講師を務め、
これまで数多くの福祉現場職員の相談と向き合い続けてきたビヨンドザボーダー(株)
安藤 亘氏に「コロナ時代をどう生きていくか」について、その専門的な知識による
アドバイスをいただきました。

人類最大の困難に直面し、心に及ぼす影響は?

コロナウィルスイメージ

新型コロナウィルス(以下「コロナ」)の影響で、様々な制約、制限、対応を迫られ、ここ数か月の間にこれまでの日常がガラッと変わりました。
家族以外の人と接することに対しては制限を設けなくてはならず、精神的にも神経をすり減らします。しかも今は移動や他者との接触が制限されているので、特別な用事以外家にいる時間が増え、仕事等で受けたストレスを他で上手く発散できないため、気分転換もままならない。休日も、必要最低限の買い物以外は家の中にいることが多いのではないでしょうか。
ストレスには適正範囲があって、多すぎても少なすぎても生産性が下がることが知られています。家から一歩外に出れば、様々な刺激(ストレス)を受けますが、逆に家の中はストレスが最も少ない場所。
人との接触を避け、家にいる時間が長くなると(日中約8時間以上誰とも話さないでいると)、心身機能が低下してしまいます。身体面では運動不足、身体を支える筋肉や足腰の筋力低下は勿論、精神面では意識が内側に向かいやすくなり、軽い抑うつ状態になるといわれています。
何となくパッとしない日々が続き、終わりが見えない。そんな時、人は自分自身の生活や生き方を根本から問い直すことが多いようです。
「人は何故生きるのか」シンプルかつ深い命題ですね。おそらく原始人は、そのようなことは考えなかったでしょう。毎日命がけで生きる。今日1日の命を繋ぐため食糧と水を確保することで精一杯でした。
では「人は何のために生きるのか」つまり「生きる目的は何なのか」。その答えは「自分や家族、そして周囲の人を幸せにするため」です。人はすべて(意識しているかどうかは別として)その目的のために生きています。
それに反する選択をすれば幸せを感じなくなり辛くなるでしょう。結果生きる目的から遠く離れ、いつしかそのルート(道)に戻れなくなってしまうほど離れてしまうこともあるかもしれません。
日々の選択と決定が自分らしさ(自分の人生)を形成していきます。常に生きる目的に照らし、選択と決定をしていくことができれば本質からブレることはありませんし、幸せは保障されるでしょう。
人が幸せになる道は特別なことではなく、至ってシンプルなもの。こんな時だからこそ、今一度心身からのサインに耳を傾け、立ち止まって自分の生きる目的にいろいろなこと(仕事や生活)を照らしてみませんか。

イメージ~不眠~
イメージ~イライラ~

こんな状態は要注意! ~チェックリスト~

  • □ 最近寝つきが悪く、熟睡感がない日が続いている
  • □ 食欲がなく、食べても美味しいと感じられない
  • □ 視線…人との会話や付き合いがおっくうになり、避けるようになった
  • □身だしなみ…頭髪や服装を整えるのがおっくうになった、風呂に入るのが面倒になった
  • □言動…感情の起伏が激しくなった(急に泣き出したり、怒ったりするなど)、ため息をつくようになった、明らかにお酒やたばこの量が増えた
  • □仕事…遅刻がちになった、気持ちが上がって来ず午前中特に辛い、残業や休日出勤等で月平均の就業時間が増えるようになった、ミスが増えたり能率が低下してきたりしている

 

人としての宿命 ~社会性の最も高い動物~

イメージ~ヨガ~

唐突ですが、ここで質問です。今、欲しい物(例えば高級住宅、高級車、ブランド品のバッグ、高級フレンチ・中華・イタリアン等)を想像してみて下さい。お金の制限は設けません。
想像できましたか? では、それらすべて差し上げます。でも、ひとつ条件があります。その条件とは、〝今後生涯電波も届かない無人島で暮らすこと〟だとしたらどうでしょう。
いくら高価なブランド物のバッグを肩から下げて歩いても、最高級な食事をしても、無人島で一人であれば虚しいだけです。なぜ幸せを感じることができず虚しいのか、それは人は人との間でしか喜びを分かち合えない社会性の高い生き物だからです。
人間は他の動物に比べて身体に占める脳の割合が大きいので、非常に未熟な状態で生まれてきます。そのまま放っておかれれば死んでしまいます。そのため、種を守るために「社会」を形成するようになりました。
動物園でも「サル山」等、サルは単体で飼いません。集団で飼育します。社会と繋がっていたいという本能があるからです。逆に社会との繋がりがない状態は死を意味しますので、精神的に不安定になります。
また、イタリアの教授が、神経科学における20世紀末から21世紀初頭にかけての10年において「ミラーニューロン」という非常に重要な発見をしました。
霊長類(ヒト、サル、チンパンジー、ゴリラ等)は、一方の個体の表情(や行動)が、近くにいる他の個体の表情にかなり影響を与えるというものです。
一匹のチンパンジーが何か機嫌を損ねて〝キー〟となると、近くにいるチンパンジーも同じように〝キー〟となる。脳の同じ部分が反応していることがわかったのです。
そして霊長類は自立する、つまり何らかの手段を用いて餌を捉え、自分で食べていけるようになるまでに相当時間がかかります。人であれば約20年ですね。
つまり「社会」を形成しないと種を維持できない霊長類は、他の動物にはみられない「共鳴性」を持っているということです。
人はひとりでは生きていけない。よく使われる言葉ですが、人は動物の中で社会性が最も高い存在であるということです。

コロナ疲れの本質

イメージ~マスク~

「ステイホーム」「人との距離をとれ」「近い距離で密な会話はするな」これは人間にとって最も辛いことです。
たとえ人との接点がある自宅以外の仕事現場等であっても、ほぼ一日中マスク着用。昼食や休憩時間であっても、マスクなしの会話は厳重に禁止されていますので、コミュニケーションにも大きな影響を及ぼします。
コロナ以前は、それがかなり自由でした。しかし個人が本来持っていた生きいきとした生きる力は、今遭遇している一人ひとりが「孤立」しやすい状況においては、それを活かすことは困難です。他者との対話によって良い循環が生み出される状況で、はじめて徐々にゆっくりと改善し、自分らしさを回復します。
人が心のバランスを崩してしまう一番の原因は「孤立」、心身の健康を維持・向上していくために最も大切なのが「コミュニケーション」です。
コミュニケーションは、人の身体に例えると血液や血管にあたります。酸素をいっぱい含んだ血液が、身体の隅々、末端にまで行きわたっているということ。職場で一番立場の弱い人(身体の末端)が生きいきと仕事をしているかどうかだけ見れば職場全体の健康状態がわかるともいいます。
そして国語辞典には「自立」の反対は「依存」と書かれてありますが、自立の反対は依存ではなく「孤立」なのではないでしょうか。
人はひとりでは生きていけませんし何ものにも依存しないで生きていくことも決してありえません。人は心を許せる友人、知人、家族との関係の中で互いに信頼し、適度に依存し合える関係こそ、むしろ本当に自立している状態といえるのです。
これまでのところで、人は人との間でしか幸せを実感することができない動物であるということはご理解いただけたと思います。
コロナは「病気そのもの」としての怖さだけでなく、収束まで長期にわたることにより個人の心にダメージを積み上げ、自分自身がいつ被害者になり、加害者になるのかわからないため、不安や孤立感をじわじわと広げていくという特徴があります。
そして霊長類は自立する、つまり何らかの手段を用いて餌を捉え、自分で食べていけるようになるまでに相当時間がかかります。人であれば約20年ですね。
人と人とのつながりが社会を形成しているわけですが、その「つながり」「コミュニケーション」を断ち切るのが今回のコロナによる最大の困難です。
今回、人はどのような存在か、そして心身ともに健康でいるために必要な人とのつながりが切れ「孤立」することによって、様々な弊害が生じていることをお話しさせていただきました。福祉現場の皆さん、心から応援しています。

次号では、コロナ禍における家庭生活や職場での皆様個人の心の悩みに対し、安藤先生にアドバイスいただく企画を予定しております。是非、皆様の声をお聞かせください。裏表紙「応募のきまり」をご覧のうえ、葉書またはEメールにてご応募ください。

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